推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_22話:ララと親友の恋模様

何故ララが軍人になったのかと言うと、端的に言えばアンジュの案に乗ったからだ。アンジュの独り立ち計画を密かに共有されていた親友たち。幼い頃から将来についてよく考えていた。いずれは家督を継ぐとしても、まずは1人で生計を立てる習慣を身につけたかった。

ブルナー家に遊びにいくと、必ず特訓に混ぜてもらっていたララは、技能と体力は十二分であったため無事に入隊試験を突破。

そこで親友があのアルフレードに、恋に落ちるなど考えてもいなかった。



アルフレードとは中等学園までも同級生であった。叔父家族とランゲ家に関わりがあり、アンジュよりかは短いが、付き合いがある。しかし初対面で、お互いに気の合わない相手だと認識。さらに仲がいいと噂が流れれば他の学生からやっかみを受けるため、必要以上に関わってこなかった。

両親や長男が軍に所属している観点からも、アルフレードが必然と軍を選ぶのは考えればよく分かったことだが、ララにとっては気にかけるほどではない。
無視できなくなったのは、大切な親友の目が彼を追いかけるようになったから。幸いにもアンジュとは同室、同クラスであった。基本的に2人で行動していたため、アンジュの変化はすぐに分かった。真っ赤な瞳が、人気者を追いかける頻度が増えていく。

((アンジュ、もしかしてアルフレードのこと…))

冬休みの女子会で勢い勝り問いただせば、等々と語り出したのはまさに青天の霹靂。
彼女が外に興味を持つ事態、滅多にないため感情はうれしかった。

『貴女はアルフレードを推してもいるのね』

『推し?』

ビアンカ曰く、熱烈に応援したい、その魅力を伝えたいほど愛ーこの場合の愛は恋愛とは関係なくていいーをかける特定の人物や物のことだと。ファラデウス国の元首子息と、婚約者の隣国の姫を熱烈に応援活動をしている”カップリング&ロイヤルファン”である"推し活"に精を出している。
そんな彼女のように、アンジュがアルフレードを"推し"ている?


『確かに!推しだ!』

深く、深く納得したアンジュに、ララたちは親友の悪癖を察知した。

『私にとって元気の象徴だ!彼と恋愛関係になりたい訳じゃないし、なにより語り尽くしたい。つまり、魅力を伝えたいんだ!』

珍しい幻獣種にトキメキの隠せない娘の反応である。恋が、なにやら別方向へと舵を切ったようだ。サーラが言葉を飲み込んでいる。よくよく審議したくなるも、本人が前向きに感情を捉えたのだから、良しとすることにした。だって好きの形も、多種多様なのだから。

『ねぇ今だけ聞かせて?アルフレードと知り合うなら間に入るよ?一応知り合いだし』

『ありがとう。けど、それは必要ないよ。叶えたい、じゃなくて応援したいとか、ビアンカが言う通り、推せてもらえれば満足。勝手だけど、その…隠しておきたいから』

『うん。わかった。じゃあ、何もしないでおくわ』

余談であるが。叔父に呼び出されて中央の屋敷に一時帰宅すると、母親と次兄を引き連れたアルフレードがいた。
アンジュに惚れたので仲を取り持ってくれないか、と懇願され驚愕した。
アルフレードに恋愛感情があったことも。まさか親友を好いたことも。なにより2人が両思いであることを。
遠くから見かけるアルフレードは、いつも暗いか困った顔を浮かべていた。いつも誰かに追いかけられて、逃げ回って。自分の意志とは関係がない人気ぶりのせいで、独りぼっちな男の子。人生とはままならないものだと子供ながらに思ったものだ。
今も不安げに眉を下げてオドオドしているが、灰色の瞳はいつになく輝き、頬を赤らめている。

((本気だ…うわ、なんて))

タイミングが悪いのか。

すでにアンジュと約束してしまっている。何もしないと。彼女が己の想いを秘めたい理由も分かっている。親友の我々にはだから明かしてくれた花園を散らしたくはない。彼女の心境を思えば、破るわけにはいかない。

((それでも。それでも昨日よりも前に来ていたなら!))

アルフレードも人を頼るのは悩んだに違いないのだが、ララは握り拳を振り上げる寸前であった。

『本当にアンジュを思うなら、よくよく考えなさい。でないと、アンタを追っかける人たちと同じだからね!!!あと、自分で動かないと何も得れないんだから』

流石にララも一方的に怒ってしまったと反省している。アルフレードにとっても、まさかの鬼の形相で叱られた苦い記憶。
共に話を聞いていたララの叔父が、冷静に状況の擦り合わせと助言を送った。素直に受け止めた彼らは、帰って行った。





冬休みが明け、再び軍学校で教官に扱かれる日々。忙しさに追われながらも、アンジュは観察日記のようなアルフレード推し活にも精を出していた。

気心知れた友達と話していると、照れくさそうに笑う癖。
迷い猫にも丁寧語で接するアルフレードの姿に、彼は誰にでも丁寧である。そして本当に付き合いが苦手なのだと。

彼は普通の男の子なんだと、アンジュが話してくれるカケラに、ララも知らない一面ばかりー興味がなかった相手であるために当たり前で、知ったとこれで何にもならないのだがーに驚いた。
アンジュは、よくよくアルフレードに興味を抱いている。
だと言うのに、誰からも遠い場所から、関わらないようにしていた。
本人は、たまにオリジナルのグッズを作った、アルフレードグッズ収集を称していたが、実際の所は応援うちわ作りやアルフレードの絵を描き、アルフレードの写真を1枚手に入れ、友人から貰ったぬいぐるみ用に着せ替え服を作っただけ。重いのか、軽いのか判断がつかなかったが、ニマニマと笑う親友は至極楽しそうであった。
時折、アルフレードがアンジュの動向を探る気配を感じていたが進展はない。

恋の道はかなり長そうだと、この時のララは冷静に見つめていた。





普段と変わらない様子に、転換期が訪れた。
アルフレードが荷物運び中のアンジュに声をかけたのをきっかけに、2人は図書室で会話する時間ができていたのだ。
アンジュはよく図書室を訪れては、色んな本を読み漁っていた。知識は生きる上で史上の武器だ。邪魔にならない程度に、アルフレードは密かに彼女の元を訪ねていた。
当時は2人とも苗字で呼び合い、話す時間も10分程度であったが、じっくりと彼女の中の芽が育っていった。

『君と、話がしたいから来てる。ブルナーとの話は…その、楽しい」

『君は様々な研鑽を積んでいるし、体験からの実話はためになる。俺は幻獣瞬間については雑学だけで詳しくないから、色んな見方をしている。いや、そうじゃなくても、一緒に入れると和む。だから、楽しいよ。とっても」

『怖くない。何も。君の…全てに感心している。だから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」

『特別な魔力と、性質だとは分かってる。ニコラがよく倒れるのも。けど君は制御しているし、その技術も胆力も全て感心する」

気になっている相手から送られる温かな言葉は、確実にアンジュの心に届いていった。
ほんのり紅く色づいた頬を含まらせて寮部屋に帰ってくるアンジュは愛らしさが増して、実に恋する乙女である。

((やるじゃん))

アンジュは本気で堕としにかかっているようだ。
時間はかかっているが、コツコツと実を結んでいる。これは本当に良い結果へ至るかもしれない。

シトシトと雨水が大地に染み渡るように。過ぎ去る月日は、アンジュの想いを深めていった。
親友が大切にされているのは嬉しいが、寂しさもある。むしろアルフレードに取られる感覚が胸をモヤつかせる。10年も長く付き合いがあるのだ。ララも負けじと、アンジュと共に過ごしていた。

ある日の放課後。特訓に疲れたララとアンジュは限られた休み時間を、裏庭でのんびり過ごしていた。ララがアンジュを後ろから抱きしめアンジュの髪をいじり、アンジュはララにもたれ、うたた寝をしている。

((ん?))

なにやら、痛い視線がララを指す。腕の中で眠るアンジュを起こさないように、そっと顔を向ければ、ララを睨むアルフレードがいた。

((ははは))

嫉妬。嫉妬である。間違いなく、国1番の人気者は、想い人の至近距離に自然に入り込める親友の存在を、面白くないと感じている。

ララは微笑んだ。満面な笑みだ。勝ち誇った愉悦の顔に、アルフレードは顔を歪ませた。その表情に、さらに笑いが込み上げてくる。

『…ん。ララ、なんか』

『気にしなくていいよアンジュ』

アンジュがアルフレードに目線がいかないように、抱きしめる腕に力を入れる。今の状況はアンジュに誤解させる。好きな人に睨まれているなど思い込めば、アンジュは好意を捨ててしまうに違いないのだから。
善意の行動だというのに、アルフレードの顔つきはさらに厳しくなるのだから余裕の無さに呆れてしまう。

((ま、今は見せつけとくか))

親友の隣に、アルフレードが並ぶ未来があるのかも知れない。そしたら、この場所を譲る場合も多くなる。しかし簡単に明け渡したくはない。ララにとって、親友たちの隣は幸せなのだから。

すでにブルナー家にはアルフレードの存在は認知されている。彼らは全力で協力しながら、壁になるに違いない。
なら、そこに自分も加わるまでだ。


いつの間にか切って落とされた火蓋。
それはアルフレードが婚約者になっても続いている。
親友と婚約者が、まさか自分の隣を巡り火花を散らしているなど知らないアンジュは、今もベッドの中で夢を見ているのであった。
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