推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_23話:束の間

「ほーんと。愛とか恋とか…未来とかわかんないもんだね」

喧騒も静まった、アンジュの借家。
アンジュと3人の親友は子供の頃のように、並んで寝ることにした。流石に一緒にアンジュの部屋で寝るのは狭いため、2回の1番奥にある広い部屋にマットレスを敷き、身を寄せ合って眠ることにした。
眠くなるまで話し込んだ健やかな寝息を子守唄に、船を漕ぎながらララは床を見つめていた。

四苦八苦しながらも、アンジュの兄姉らの手助けもあり初恋を結実させたアルフレード。
アンジュの初恋も実ったはずであるのに、婚約以降は冷静であったのは流石過ぎた。もっと舞い上がってもいいと思うが、そこはアンジュ・ブルナー、”化け物娘”。

『私の大切な人たちが、私のせいできずつくのは死ぬほど嫌っ!!!だったら、1人がいい!』

思い出される、かつての咆哮。初めての喧嘩で、アンジュか吐き出した毒。
デュドネが亡くなり、久しぶりに会った親友に言われたのは
まだ7歳であった。アンジュの言葉に傷つき、アンジュを叩いてしまったにも関わらず彼女は反撃してこなかった。できなかったのだ。事故後、魔力調節は会得したがまだ制限ができない。傷つけまいとスカートを握るばかり。
対等ですら無くなったことに、ララはますます癇癪を起こした。止めようとする家族の制止を振り切り、無我夢中の言い合いは、2人とも涙でぐちゃぐちゃになって疲れ果ててしまった。

『みんないなくなっちゃうの。にいさんたちの友達も、こんやくしゃも、みんな、わたしのせいで。学校でも、私といれば不幸になるって、仲間外れに。もうどうしたらいいのか、わかんない…』

落ち着いた彼女から
アンジュは悪魔の力を手に入れた。
否定も、肯定も、同情も正しくない。
ララはアンジュを抱きしめ、彼女の話を聞き、それでも共にいたいと、ララは言い切った。
涙ながらに頷き、ひどいことを言ったと謝る彼女に、ララも叩いてごめんなさいと謝り、再び号泣大会になった。
成長の中新しい親友ができたが、以外では閉鎖的な交友が続いていた。そんな彼女に、ようやく大切な相手ができた。無事に結ばれたのに、邪魔をする存在がいる。

アルフレードを推しとして、1人の男性として愛するアンジュ。
アンジュをただ1人の女性として、初めての愛を不器用ながらに育てるアルフレード。
己の運命だと、アルフレードを愛するご令嬢。

全て、すべて、愛なのだ。

アルフレードのしつこさは実を結び、アンジュと婚約を結ぶにまで至った。今年で4年目になるにも関わらず、まだすれ違いはあるが、2人ならば確かに乗り越えるに違いない。
理想で言えば、すでに結婚しているビアンカと、彼女の夫の関係こそ「あぁこれが夫婦の形か」と確信する。お互いが尊敬し、思いやる。なにより必ず近くにいなくても、互いが。政略結婚でありながら、価値観をすり合わせて、共に生きる努力を怠らなかった2人。

だから考えてしまう。

アルフレードと関係を持っていると公言する令嬢は、どんな気持ちなのだろうか。何を考えて、信じているのか。

(お母様…)

今は亡き聡明で自分を愛してくれた、ただしそれだけでなかった母。彼女なら何と言ってくれただろうか。
床の木目は何も語らない。

「お悩み?」

「うぉっ」

2つ隣で眠っていたはずのビアンカの声が聞こえ、ララは驚いた。目線を向ければ、顔をこちらに向けて微笑む彼女。実家から持ってきた、耳付きのナイトキャップが可愛らしい。

「いや、なんかね。色々と聞いてたらさ」

「あなた言ってたわね。『愛とは、恋とは』って。答えは出た?」

ララは首を横に振る。
大人になるにつれ、色々と両親について気づくことがあった。祖父母に相談しにくい内容、悩みを親友たちに聞いてもらったことがあった。

「恋愛なんて言葉、誰が生み出したのかしらね。誰も知らなければ、苦しみはなかったのかも」

「けど、ある事によって力になる。名前とは、言葉とは取り扱えないものを、使えるようになる手段である、か」

その呟きは、夜の寒気さに溶けていく。

「だからたくさんの答えがあり、再構成の必要があるのよ。試行錯誤ができる、面白いじゃない」

「面白い、か。それもまた1つの真理だね」

天井を見上げたまま話す、常に微笑んだような表情を浮かべている彼女。眠っているか、いないのか分からない。だからか、話の内容も妙に現実味が薄い。
もしかしたら自分はすでに眠っていて、夢の中かもしれない。
そう思うと、途端にあくびが漏れる。

「あら可愛いお口。夜更かしは美しさを損ねるわ、寝ましょ」

「そうしますか。ビアンカ寒くない?」

「全然。この家かなり造りをしっかりしているし、アンジュも魔術をかけてくれているから。なにより、最高の湯たんぽに挟まれてるから最強よ!」

ビアンカの両側、つまりベッドの端にアンジュが、真ん中にはサーラが寝ている。体温の高い2人に挟まれ、毛布と羽毛があれば暖は問題ない。

「ははは。じゃ、私もお裾分けしてもらおっと」

ぎゅっとサーラ側に距離を詰める。ぐっすりと眠る年下の親友の確かな温もりに、ララは一つあくびが漏れる。

「それじゃあおやすみなさい、ララ」

「おやすみビアンカ」

「みんなと出会えてよかった」

「あら、奇遇ね」

くすくすと、静かに肩を揺らす。
身を寄せ合って眠る4人は子供のよう。
夜を照らす天体の光も、静かに街を照らすのであった。





ローランド校主催の夜会まで、あと一週間。
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