推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_24話:令嬢の思い

「アルフレード様、どうして?」

ミア・ブラン伯爵令嬢は1人部屋にいた。
最愛の人、運命である”アルフレード様”と連絡が付かないのだ。いつ会うは、全て彼が決定している。会う予定は、仕事場までの道にある掲示板に秘密の暗号が書かれているのだ。

呼び出しがあれば、どんな予定もずらして会いに行っていたのに。

令嬢は瞳に涙を浮かべる。
出会った時の衝撃は忘れられない。去年の耐寒の日。街で声をかけてくれた彼。体温、情熱。自分にしか見せない姿だと思えば、どんなに恥ずかしくとも己の全てを曝け出した。心身ともに、深くつながった関係なのだ。
それなのに。

「あの女…私と彼の中を知っておきながら、アルフレード様を束縛するなんて」

脳裏に浮かぶ、図々しい小娘。真っ白な髪、真っ赤な瞳、耳障りな声、人を見下した態度。どれも崇高なアルフレードとは不釣り合いな女。
アンジュ・ブルナー。
化け物娘の噂は令嬢の耳に届いていた。最近では新人を虐め、辞めさせたなどと聞いている。若い未来を潰しておきながら、自分は今でも軍に勤め、平然と街を闊歩している。
そんな悍ましい女と、アルフレードはずっと暮らしている。本当は恐ろしいにも関わらず、彼女にも優しく笑う彼が可哀想だ。

『彼女は…別に悪くない。ただ、婚約者だからね。仕事場で紹介すれば、君が責められるから』

ベッドでつぶやいた彼の言葉。流石化け物にも配慮ができる聖人だ。彼の考えに深く納得したから、会いに行きたくとも、約束を守ってきた。破って、わがままな女だと思われたくもない。
本当は会いたくて、会いたくてしょうがない。寂しさで涙が流れそうになる日も、ぐっと我慢している。健気な心が、張り裂けそうなのだ。

(アルフレードさま、アルフレードさま、アルフレードさま、アルフレードさま、アルフレードさま…)

愛おしい人の名を口に出せば、憎しみが積もる。
そもそもブルナー家は全員頭がおかしい。国を守った英雄の家族であるが、彼亡き後、婚約者も友人も長年の仕事相手も不服などといった個人感情で、全てと縁を切ったと。一般貴族でありながら、召喚公などと呼ばれて周りを蔑んでいる。イカれた地方有力者に権力を与え続けた結果だ。全て中央が統治すればいいものを。食べ物さえ困る最中、人々で協力、発展してきた力強い血が流れた、中央が。

「そうよ、だからこそアルフレード様と私が結ばれるべきなのよ。運命の私たちが。真実の愛でむずはれているのだもの。単に忙しいだけよね。明日また、看板を見に行きましょう」

ぶつぶつぶつ。

娘の部屋から聞こえる人の名と、連鎖。彼女の夫妻は不安で顔を見合わせる。

毎年贈られてくるはずの花祭り用のドレスも、今年は届いていない。そもそも、2人は最近会っていないようなのだ。どういうことか確認したくとも、当人らと話ができない状況が続いている。
娘に至っては仕事場に出勤していない。毎日をつけずに街へ繰り出していると使用人から報告を受けている。どうなっているのか。婚約相手の家ともども、困惑している。

夜も遅いと、伯爵夫妻は部屋へと戻る。
朝になったら、今度こそ娘から話を聞こうと。


それを、毎日繰り返していると言うのに。





「…新しい情報は入ってこないな。念の為、明日も看板を見に行くか。ありがとう。今夜はもう、いいぞ。帰っておいで」
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