推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_25話:お披露目と混乱

ローランド公主催の夜会まで、あと5日。
親友たちから助言があった旨を早速、アルフレードの母親とロゲアタに相談すれば、彼女たちも予測していたようで。

『当日の方が面白いけど…ま、いっか』

アルフレードにだけー他の男性陣には当日驚かせる算段は変えない固い意志ー今日はドレスをお披露目することになった。
アンジュの借家に集まり、ドレスアップ。しっかりメイクを施す。ロベアタの手を借りながり、少し伸びた髪の毛を結い、飾りを付ける。

「最近、例の令嬢絡んでこないんだって?」

「はい…。近くまではいる気配はありますが、最近は私の近くにはアルフレードがいますから。どうやら約束を守っているようです」

影から見つめる鋭い目線。憎しみがこもった気配は、毎日アンジュの近くにある。1人の時に現れていたが、アルフレードが借家で暮らすように、さらに常にアルフレードと過ごすようになってからは接近してこない。
以前彼女自身が話していた通り、アルフレードとの約束を守っているに違いない。

「健気ですこと。人の婚約者と浮気してますぅって公言しときながら」

「彼女にとって…現実は受け入れ難い世界だったのでしょう。救われたいと思う中で現れた、アルフレードはまさに白馬の王子様だったのではないか。最近はそう考えてます」

信じたくない世界、つらい現実。アンジュにも覚えがある。自身は家族や友人らの助けがあり、あとは全て割り切ってしまった。側から見れば、容赦ない身の回りの整理は無慈悲だと責められたほど。
もし、世界を憂いるばかりであったら。手を差し伸べてくれた人々にもっと、もっと依存していた可能性がある。
そう考えると、令嬢の気持ちもわからなくない。

「いや、浮気するやつのどこが理想の王子様よ。自分の都合で現実側面補完するの、妄想と変わらないわ」

はっきり、無し、と断言するロベアタ。
口紅を塗っていたアンジュは苦笑する。正直理解はできても、認められないのは事実だからだ。結局自分は優しくなれない。譲れない。だから、恨まれようと、憎まれようと。とことん戦う所存である。

「だからアンジュ、この花祭りで周囲の妄想を壊してやろう!楽しむってことは第一優先だからね。そんな訳で…完成!」

準備が整った。アンジュは立ち上がり、全身鏡の前に立つ。頭からドレスの端まで。煌びやかに着飾った姿は、いつもとは違った様相で。自分自身でなく見えた。思わず頬をつまむ、指先から感じる体温も、頬の痛みも間違いなく現実である。たまらず息が漏れる。別人みたいだ。
ロベアタの歓喜の声が上がる。

「うんうんうん!超絶良いよ!」

先に呼ばれたトゥーダがアンジュの姿に、感嘆の声を漏らす。

「美しいよアンジュ。いや、いつもは可愛らしいが、新しい魅力が花開いたな。素晴らしい。あぁ、可愛い娘たちとみんなでドレスを着て出席するの、今から楽しみだなぁ!」

「ありがとうございます。私も、楽しみです」

いざ、本命にお披露目である。トゥーダとロベアタが部屋から出る。代わりにアルフレードが入室する。
彼は目を見開く。大きく、大きく。灰色の瞳がこぼれそうなほどに。

「どう、かな。大人っぽさを目指してみたんだ」

アンジュは緊張で体が震える。前で指を組み、耐える。

「…」

じっと、彼の言葉を待つ。

「…」

言葉を、待って、待って、待つ。
会話が、ない。
アルフレードは動かなくなった。口を微かに開け、まっすぐアンジュを捉える熱い瞳は微動だにしない。
いや。ゆっくりと、実にゆったりと背中を扉につける。彼はサムターンに触れる。

そして、部屋の扉に鍵をかけた。

「…?アル?アルフレード?」

アルフレードは颯爽とアンジュの元に戻ると抱きしめ、動かなくなった。

「ん?おい」

「ちょ、嘘でしょ?」

ドアがノックされ、叩かれ、ドアノブが回される。しかし扉は開かない。当たり前だ。だって鍵がかかっているのだから。
扉向こうから激しい猛攻も、アルフレードは一切気にした様子はない。

「アンジュ」

ようやく、アルフレードの声が聞こえてきた。耳元で聞こえる彼の声は、ほんの少し暗さが滲む。

「すごく、すごくすごく似合っている。新しい道に歩んだと話してくれた通り、また、素晴らしい魅了だ。世界で一番だ。だから、もう、ここに2人でいよう。な?」

「アルフレード?!!!」

初めて聞く過激発言に、アンジュは驚きのあまり大きな声を出した。
アンジュの新しい魅力を開かせたドレスは、アルフレードの心をかき乱した。このままでは他の男の餌食になる。不安を抱いたアルフレードは強硬手段、籠城へと思考の舵を切る。

「アルフレードぉ!籠るな!」

「この格好は多くの男を惑わします!出したくない!」

「アルフレード!絶対にないよ!私に限って!」

「アンジュは自分の魅力を知らないからそんなことを言うんだ!嫌だ…汚される…いやだ…」

説得にも耳を貸さず、外界からの激しい猛攻も無いものだと無視をしている。
アンジュの頭の中はパニックになっていた。アルフレードが何を心配しているのか、さっぱり分からない。今まで何もなかった身だ。今更化け物娘に色気を出すものなどいやしない。彼らにもプライドがあるのだから。
それにしても、ララたちの助言に救われた。これが当日に初お披露目ならば、アルフレードは間違いなく結界を張った。夜会に出席できなかっただろう。

「アルフレード」

ロベアタの低い低い声。扉向こうから殴りかかってくる圧が感じられ、アルフレードは大きく肩を跳ねさせた。

「アンタは、好きな子が自分のために精一杯オシャレしたのを無かったことにするわけ?」

「うっ」

「アンジュすっっっっごく、楽しく、アンタのタキシードもデザインしたのに?」

「うぅ」

「2人で出席できるの楽しみなんです!って超嬉しそうだったのに」

「あう」

「他の男に見せたく無いってわがままで、全部潰す気なんだ?」

「〜〜!」

もはや刃物だ。言葉は鋭利となって、アルフレードの心を的確に刺す。義姉に反論できず、アルフレードは顔を歪める。苦悶の表情を浮かべ、いたく葛藤、苦渋の表情で鍵を開けた。

「アルフレードくん。取られたくないなら側にいること、良いね?」

ロベアタのアドバイスに、涙目で頷く婚約者。

「…名前を書けば、誰も取らないだろうか?」

「ドレスが名前代わりだ。このうつけ者」

アルフレードの諦め悪い発言を、今度は母親であるトゥーダが諌める。
何のために、タキシードとドレスのデザインや布をリンクさせていると言うのか。ほとほと呆れ果てた表情を浮かべるロベアタとトゥーダ。アルフレードも大きな体を縮こませている。

「すみません…」

「アルフレード…。大丈夫、だいじょうぶ」

色んな意味で花祭りは前途多難のようである。
アンジュはひたすら背中を撫でて慰めるのであった。
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