推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_26話:魔法使い

「なによ!なんなのよ」

なんで自分ばかりが、こんな目に!
令嬢の鬱憤は溜まり、溜まっていた。
今日こそアルフレード会えると、屋敷を抜け出そうとしたところを使用人に阻まれた。両親の元へと引き摺り出されて、時間を無駄にした。

彼らは自分を責めるばかり。

「働きもしないで、毎日何をしているのか」

「婚約者が居ながら、アルフレードなど他の男と関係を結ぶとは」

「今更子供のような振る舞いで、すべてを台無しにするきか!」

令嬢は冷笑する。昔から嫌だといっても聞いてくれなかった年老いた2人。昔から耳から脳までの神経が言っていなかったのだと、わあわあと喚く彼らの姿は、令嬢には醜い小鬼に変貌した。
何より彼女は知ってる。この2人にはそれぞれ恋人がいることを。役目を果たしたなら好き勝手にしても良いというのか。どうせ聞いても、彼らはそれが貴族だからとsか答えるのだ。うまい理由も思いつかない程度の人間であるから、事業も他の家を頼らないといけない。なら自分でどうにかすれば良いのに。何故自分に押し付けるのか。心の底から冷えていく。もう両親とも思えなくなった令嬢には嫌悪が湧き上がり、こびり着く。

「私にばかり、求めるの。私は、幸せになるの。どうして邪魔するの!もう、アンタたちの幸せの糧になんてならないわ!」

頬を打たれた。瞬間、頭の中が真っ赤に染まる。令嬢はすぐ近くにあった花瓶を掴むと、父親の顔面目掛けて腕を振るう。寸前でずれたために花瓶は彼に当たらなかったが、手当たり次第に物を投げつけ、暴れ逃げる。
上がる悲鳴も止めようとする焦り声も、物が壊れていく音も聞こえない。
無我夢中に、彼女は屋敷を出た。アルフレードに会いたい、その一心で足を動かす。

彼ならば状況を変えてくれる。自分を認めてくれる。今すぐに、癒して欲しい。
走って、走って。

「いた」

アルフレードだ。彼女の、王子様。遠くからでも目立つ背の高い男性、逞しい体。近くによれば甘い香りで、満たしてくれる。優しい言葉をかけてくれる。あっという間に気持ちが軽くなった。

「あ、る」

と。
その隣でほくそ笑む、真っ白な悪女。

最愛の男性と、強欲な悪魔。腕には紙袋を抱えている。紙から覗くたくさんの食材。買い出しだと分かると、さらに憎しみが湧き上がってくる。使用人に任せれば良いものを。優しさに漬け込み、彼をこき使う。

(ああ、今日も!あの女!)

彼と会えないから、仕事も予定もできないと言うのに。つまり、アルフレードを独占している彼女、いや化け物のせいで自分が辛い目に合っているのだ。

許せない、許せない、許せない!

令嬢の足先からジクジクと血管が沸騰する感覚に支配される。赤く、いや白く視界が染まっていく。今まで必死に我慢していた。いい加減にしてほしい。それも、もう限界だ。あの存在に、罰を!


「まあ、少し落ち着きなよ。ご令嬢」





「え、アルフレードさまは?」

声が聞こえたと思ったら、真っ暗な場所にいた。憤怒に支配されついた令嬢も、今は流石に戸惑いが勝る。

ー安心して。私は君に危害を加える気はない。ただ、勿体無いと思ったんだ

ふと、文字が浮かび上がる。キラキラと輝くパウダーで綴られた台詞は、幻想的とも言える。

「ど、どういうこと?」

幾分か落ち着きを取り戻した令嬢は文字に、他に何に声をかけて良いかわからずに、空間に問う。
すると暗闇から鏡が現れた。優美な曲線の縁て飾られた全身鏡には、美しいドレスを見に纏った自分の姿が写っている。
慌てて自分の姿を確認すれば、泥と汗で汚れたヒールとドレス。結った髪も乱れてしまっていると、彼女は己の姿を恥じた。

「そう、ね。私ったら、アルフレード様に恥をかかせる所だったわ。こんな格好じゃ…」

ー会うなら、素敵な装いが相応しい。王子との晴れ舞台は、パーティーだって決まっている

続いて写る、豪華な建物。広々としたホール。中央区で暮らしていれば、知らぬものはいない。ファラデウスの中でも、さらに特別な者しか選ばれない会場。

まさに、自分たちに用意された相応しい場所だ。

「あなたは、だれ?」

興奮がおさまらぬ様子の令嬢の声が空間に響く。まだらに暗闇に光の濃度さが出たと思えば、目の前の空間から光が差し込んでくる。そこから何かが現れた。
目を凝らせば、光に慣れてようやく姿を捉えた。人だ、人間であった。

「目的は違えど、仲間といっても過言じゃない。城への道筋を作る、魔法使いってところ」

光の間から姿を表した男の周りに、キラキラと輝きが舞う。それは先程まで浮かんでいた文字と同じ光。
文字の主は、思っていたよりも若かった。三角の帽子に古びたマントも、杖も持っていない。丸い帽子にコート、さらには革手袋も真っ黒だ。顔と袖から見えるシワのない白い肌が際立ち、光っているように見える。
だが確かに魔法使い的な神秘に溢れた雰囲気に、振る舞いも丁寧だ。
彼もまた、自分に相応しい魔法使いだと令嬢はほくそ笑む。

「さあ、こちらへ」

差し出された手を、確かな確信を胸に令嬢は己の手を重ねた。





「セオドア・ブルナー軍曹。セオドア・ブルナー軍曹はいるか!」

ウィリアムの声が、中央本部警察局に響き渡る。
ミア・ブラン伯爵令嬢の気配が、完全に途絶えたからだ。それも急に。アンジュの広域探索でも引っかからない。異常事態であると判断した。軍での捜査担当官であるランベルト大佐も引き連れて、確実な味方であり中央区での特別捜査官でもあるアンジュの兄の元へと駆け込んだ。
セオドアから彼の上司であるベアトリーチェ大佐へと早急に話はまわり、さらに専門担当官へと情報。合わせてアルフレード捜査に大佐への情報共有。
この日を持って、防衛局から警察局への要請により、彼女の捜索が開始された。
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