推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。

3章「vs麗しきご令嬢」_27話:重たい思い出

アルフレードは、春と夏が好きではない。
社交シーズンに入るからだ。

友人を得るために、また両親の付き合いでお茶会やパーティーに出席しても、多くの人から付き纏われるばかり。知り合いでもない人々は何故かアルフレードに興味を持ち、しつこく接してくる。ただでさえ人付き合いが苦手だというのに、似たような話ばかり聞かされて、食事もまともに取れない。
同性かつ同世代の子との付き合いがあれば違っただろうが、あまりの人気ぶりに気押されるか、面白くないと近寄る人はいなかった。アルフレードから近づいても、言葉にもたついているうちに別の人に囲まれてしまい、距離ができてしまう。
1人になれば誘拐されると言い聞かせられ、家族の側にいる他に方法もない。必ず付き添ってくれる兄たちは一切文句を言わず、時に友人らの和にも加えてくれた。彼らの優しさは嬉しかったけれど、その度に申し訳なさで胸が痛かった。
自分がいなければ、兄たちは自由に友人たちと過ごせたのではないか、と考えてしまう。





だから、軍学校時代が1番気楽であった。当主を継ぐことになった次兄コルラードから学校を優先するよう気を回してくるたおかげで、一切出席しなくて済んだ。
その期間はコルラードは散々詰められたのだが、彼なりにのらりくらりとやり過ごしていた。

困ったのは正式配属後。
エゼリオ班は広報も兼ねているため、勧誘会やパーティーなどの出席が増えてしまった。そればかりか上官が娘との見合いを兼ねて無理矢理パートナーを勧めてくるのだ。しかしそれも、上司たちが上手く負担がかからないように避けてくれた。
新人でありながら、余計上司のお荷物になってしまうのが心苦しかったが、その分他の仕事で活躍しようと自分ながらに奮起してきた。



逃げてきたアルフレードが、ようやく出てみたいと心から思い、準備から取り組んだのはアンジュと参加する花祭り。
自分の衣装と合わせ、アンジュのドレスを用意した。彼女に似合い、かつ自分の婚約者であると一目でわかるようこだわりぬいたドレス。このドレスを身にまとう婚約者は、自分の隣で笑ってくれるだろうか。
いつにもなく、とても、とてもとても楽しみにしていた。

彼の浮かれた気持ちは、家族もよくわかっていた。苦笑しながら、サポートしてくれた。

しかし。アンジュと初めて参加する花祭りは、妨害された。長くアルフレードの面倒を見てくれた、彼の乳母に。
当時はまだ実家で暮らしていたアルフレード。彼が不在の時に、アンジュに宛てた手紙の日取りを乳母が書き換えた。
仕事を理由に、直接顔を合わせて話はなかったのが悪かった。幼い頃から面倒を見てくれた人だからと、信頼したのが間違いであった。
乳母はまことしやかに囁かれている”化け物娘”の噂を信じ込み、善意からアルフレードとアンジュを別れさせようとした。

『あんな娘と婚約なんて…皆様騙されているのです!』

心配したアルフレードの母方の祖父が確認を取らなければ、アンジュは何も知らず1人で参加する羽目になった。
阻止出来たのはいいが、問題は解決しない。
花祭り期間の、軍の出勤日程は決まっており、今更変更希望は出せない。なにより西の末娘が参加するならばと、アンジュが出席する夜にファラデウス特別8公が集まることが決まっていた。一軍人の都合で、国の主軸である彼らの予定を狂わせることはできない。
結局。アンジュは、彼女の長兄ー当時ライオネルにはまだ婚約者がいなかったーと出席。
アルフレードは、花祭りは参加しなかった。できなかった。

1人で参加しても意味がない。愛おしい人と、同じ時間を過ごしたかった。

この事件をきっかけに屋敷を出て、寮で暮らすようになった。アンジュに偽の手紙を掴ませた乳母はランゲ家を解雇。生涯ランゲ家に関わらない制約を結んだ。西の統治者家族を騙そうとした罪としては、彼女が流した涙と比べても軽い処罰であった。

2回目、つまり去年は純粋に予定が合わなかった。しょうがないことだ。花祭り時期の軍の忙しさは、同じく軍で働く両親を見て育ったアルフレードは、よくよく知っていた。だから、悔しくはあっても、諦めざるおえなかった。

今年こそは、叶えたい。ようやくの3回目。
アンジュがデザインしてくれたタキシードを着て、彼女と踊り、美味しい食事を摂り、2人の時間を満喫したい。

『どうか、どうか今年は何も起こりませんように!!』

今年は絶対に2人が無事に出席できるよう、毎日のように祈っているコルラードの声が聞こえてきた。
アンジュと婚約したにも関わらず、以前にも増してアルフレードを狙う輩が多く、その矢先に立たされるコルラードにとって、花祭りのパーティーは合法的にアンジュとアルフレードの仲の良さを広めることができる。








カチ、カチ、カチ、カチ。

時計の音だけが響き渡る。
ベッドで横になるアルフレードは、暗闇のアンジュの部屋を見つめていた。
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