推しで一途な婚約者は、国一番の人気者!つまり毎日が修羅場です。
3章「vs麗しきご令嬢」_38話:エピローグ
取り囲む多くの人。
好奇と嫌疑、深いの混じる目。
攻める1人に、立ち向かう1人。
あまりにも見覚えのある光景。
慣れた、いや克服したと思っていたが、現実はいつも裏切ってくる。あの夜から昔を何度も反芻された。
記憶のない夢から目覚めれば汗でびっしょりと寝巻きは濡れ、外ではやけに人目が気になった。風の音でも、耳は敏感に音を捉える。
共にいたアルフレードに諭されて休めば、2日もベッドから起きられなくなった。
背負うと、そう考えていたのに。見込みが甘かった。
後悔をしているのかと言われれば、なんとも言い難い。
あの時は、あの方法しかなかった。そう考えている。
それなのに。何を気にしているのか。
彼女を罰したかったのか、正したかったのか。
未だ自分の気持ちは霧の中。
ともあれ。
あの夜の彼女は、間違いなく私であった。
かつて、化け物娘だと、堂々と罵られた幼い記憶。
だから。思い至った。
「つまり、令嬢も淘汰の対象だというんだな?」
「公の場での断罪。特別訓練の私の時と状況が似ている気がします」
夜会から2週間。寝込み明けから数日経った週の半ば。別館には相変わらずウィリアム班以外の人気はなく、世界から隔離された静けさに満たされていた。
つい先ほどのこと。捕らえた令嬢について、ウィリアムとツキヨに報告書が届いた。
そこには、やはり令嬢を屋敷へと手引きした存在いたことが記されていた。
3人組の男だという。
当時アルフレードのことばかりに気を取られていた令嬢は一切彼らに興味を示さなかったため、細かなことは不明であった。
・リーダー各となる、30から40弱の黒服の男がいたこと。
・他の2人は小汚く、屈強であったこと。
・他にも誰かと連絡をとっていた。
この3つの重要情報以外は、分からなかった。
報告と合わせ、アンジュは数日抱いていた違和感を伝えたのだ。気兼ねなく話せる仲間がいる。彼らの存在に、アンジュは改めて喜びを噛み締める。
「令嬢はターゲットであった、刈り取る対象であった、か。つまり、今回も例の裏役が暗躍していたと」
「それならば、令嬢が屋敷に侵入後何も手を貸さなかったのも頷けます。彼女がどうなろうとどうでもいいのでしょう」
「姿を見せておきながら、何もしないのは…なんの手がかりもないからですね。口封じの必要もない」
「よほど逃げ切る自信があるんだろうな」
ウィリアムが低い声で笑う。氷の張った湖よりも冷たい声に、アンジュもピーターも身体が震えかけた。
ウィリアム・スミスの機嫌は、中央に異動してから過去最低である。令嬢の行方がわからなかった上、会場への侵入に騒動。結果、部下は寝込んでしまった。事前に全てを片付けていれば、後者は防げたはずだ。未熟の1言では済まされない。なんとしても犯人を捕えねば気が済まない。
「前回はアンジュを、今回はご令嬢。彼女は、アルフレードとの関係していることを話していた。これは…」
「ライバルの排斥、みたいですね」
ピーターの発言に、3人は各々頷く。目的はアルフレード・ランゲであるのは違いない。
「自分の手は汚さず、他の犠牲は構わない相手。アンジュ・ブルナー、覚悟しろ。今回の相手は命をも狙ってくるぞ。それも下手すれば、国を巻き込んでな」
ウィリアムは資料を睨む。ピーターが手差しで何の資料かと聞けば、彼は一言。
「アンジュ・ブルナーを恨む人物一覧。こっちはアルフレード・ランゲ版」
彼は言葉に詰まる。隣で平然と立っているアンジュにも反応に困る。
書類はウィリアムの指示で、家族・知人にも確認をとって提出した代物だ。ささやか因縁も含め、彼らの家族も含めると単行本ほどの厚みになった。それに日々更新し続けている。
一方のアルフレードもアンジュの10分の1以下の量だが、なかなか濃い存在の名前が連なっている。
うんざりする量だが、ウィリアムにとっては非常に興味深い。
「面白いぞ?こんなところと付き合いがあったなんて。幾ら耳を増やしても、全部は知り得ないとつくづく痛感する」
「そうでしょうか…?」
アンジュが不思議そうに首を傾げた。
何度も目でなぞった名前には、一般平民から国の重役まで並んでいる。アルフレードと婚約を結んだから、気に入らないから、退学させられたから。ブルナー家を恨む相手もおり、など理由も様々だ。
これを元に彼らの弱みを握り、脅せば一生働かなくても生きていける面々だ。
目の前の娘が、ただの軍人でないとより分かる。
アルフレードの場合、過去交際を断った女性たちや、アルフレードに惚れたからと婚約解消された男性たち、彼の多彩な才能を疎んでいたという同級生、娘との婚約は断っておきながらアンジュと婚約したことをよく思っていない、軍将校らの名前がある。
人気者であろうとなかろうと、恨まれる時は恨まれる。まさに人生。
名簿1人ずつ洗っているが、目ぼしい対象は出てきていない。となれば、最悪このリストに載ってない可能性がある。
ファラデウス国民、いや、大陸中を含めた容疑者探し。
"令嬢をパーティー会場に手引きした存在"
"特別訓練を企画した存在"
"アルフレードを目的とする存在"
そして。
"ウィリアム班を中央へ異動命令を出した人物"
アルフレードを求めるならば、彼が1人の時を狙う方が早い。わざわざ西からアンジュを、さらに彼らを異動させたには、何かしら役割があるからだ。
西の壁、ウィリアム班。
風の精霊遣い、ウィリアム・スミス。
夜溶ける幻夢種のツキヨ・ルナール。
大精霊の力を誇るアンジュ・ブルナー。
捕縛の狙撃手、ペーター・ブラッカー。
西から侵入を企てる外からの敵を逃さず捕えてきた優秀な兵士。
何を企てているか分からないが、簡単に踊らされるほど優しい性格の持ち主はここにはいない。
「俺らはまだ奴らの掌で踊っている状態だ。一同気を抜かんように。何かあれば、考えすぎだと思うより前に話に来い」
「はっ」
「はっ」
「はっ」
班長の命令に部下3人は勇ましい声で応えた。
「そういう訳だ。午後からの合同訓練引き続き気合いを入れるぞ。ぬるま湯だろうと全力でことに当たれ!中央の奴らに西の恐ろしさを刻みつけるぞ」
ニヤリと笑うウィリアムの顔は果てしなく国民を守る公務員の為せるものではかった、と。短く刈り上げた髪を掻きながら後にピーターは語った。
好奇と嫌疑、深いの混じる目。
攻める1人に、立ち向かう1人。
あまりにも見覚えのある光景。
慣れた、いや克服したと思っていたが、現実はいつも裏切ってくる。あの夜から昔を何度も反芻された。
記憶のない夢から目覚めれば汗でびっしょりと寝巻きは濡れ、外ではやけに人目が気になった。風の音でも、耳は敏感に音を捉える。
共にいたアルフレードに諭されて休めば、2日もベッドから起きられなくなった。
背負うと、そう考えていたのに。見込みが甘かった。
後悔をしているのかと言われれば、なんとも言い難い。
あの時は、あの方法しかなかった。そう考えている。
それなのに。何を気にしているのか。
彼女を罰したかったのか、正したかったのか。
未だ自分の気持ちは霧の中。
ともあれ。
あの夜の彼女は、間違いなく私であった。
かつて、化け物娘だと、堂々と罵られた幼い記憶。
だから。思い至った。
「つまり、令嬢も淘汰の対象だというんだな?」
「公の場での断罪。特別訓練の私の時と状況が似ている気がします」
夜会から2週間。寝込み明けから数日経った週の半ば。別館には相変わらずウィリアム班以外の人気はなく、世界から隔離された静けさに満たされていた。
つい先ほどのこと。捕らえた令嬢について、ウィリアムとツキヨに報告書が届いた。
そこには、やはり令嬢を屋敷へと手引きした存在いたことが記されていた。
3人組の男だという。
当時アルフレードのことばかりに気を取られていた令嬢は一切彼らに興味を示さなかったため、細かなことは不明であった。
・リーダー各となる、30から40弱の黒服の男がいたこと。
・他の2人は小汚く、屈強であったこと。
・他にも誰かと連絡をとっていた。
この3つの重要情報以外は、分からなかった。
報告と合わせ、アンジュは数日抱いていた違和感を伝えたのだ。気兼ねなく話せる仲間がいる。彼らの存在に、アンジュは改めて喜びを噛み締める。
「令嬢はターゲットであった、刈り取る対象であった、か。つまり、今回も例の裏役が暗躍していたと」
「それならば、令嬢が屋敷に侵入後何も手を貸さなかったのも頷けます。彼女がどうなろうとどうでもいいのでしょう」
「姿を見せておきながら、何もしないのは…なんの手がかりもないからですね。口封じの必要もない」
「よほど逃げ切る自信があるんだろうな」
ウィリアムが低い声で笑う。氷の張った湖よりも冷たい声に、アンジュもピーターも身体が震えかけた。
ウィリアム・スミスの機嫌は、中央に異動してから過去最低である。令嬢の行方がわからなかった上、会場への侵入に騒動。結果、部下は寝込んでしまった。事前に全てを片付けていれば、後者は防げたはずだ。未熟の1言では済まされない。なんとしても犯人を捕えねば気が済まない。
「前回はアンジュを、今回はご令嬢。彼女は、アルフレードとの関係していることを話していた。これは…」
「ライバルの排斥、みたいですね」
ピーターの発言に、3人は各々頷く。目的はアルフレード・ランゲであるのは違いない。
「自分の手は汚さず、他の犠牲は構わない相手。アンジュ・ブルナー、覚悟しろ。今回の相手は命をも狙ってくるぞ。それも下手すれば、国を巻き込んでな」
ウィリアムは資料を睨む。ピーターが手差しで何の資料かと聞けば、彼は一言。
「アンジュ・ブルナーを恨む人物一覧。こっちはアルフレード・ランゲ版」
彼は言葉に詰まる。隣で平然と立っているアンジュにも反応に困る。
書類はウィリアムの指示で、家族・知人にも確認をとって提出した代物だ。ささやか因縁も含め、彼らの家族も含めると単行本ほどの厚みになった。それに日々更新し続けている。
一方のアルフレードもアンジュの10分の1以下の量だが、なかなか濃い存在の名前が連なっている。
うんざりする量だが、ウィリアムにとっては非常に興味深い。
「面白いぞ?こんなところと付き合いがあったなんて。幾ら耳を増やしても、全部は知り得ないとつくづく痛感する」
「そうでしょうか…?」
アンジュが不思議そうに首を傾げた。
何度も目でなぞった名前には、一般平民から国の重役まで並んでいる。アルフレードと婚約を結んだから、気に入らないから、退学させられたから。ブルナー家を恨む相手もおり、など理由も様々だ。
これを元に彼らの弱みを握り、脅せば一生働かなくても生きていける面々だ。
目の前の娘が、ただの軍人でないとより分かる。
アルフレードの場合、過去交際を断った女性たちや、アルフレードに惚れたからと婚約解消された男性たち、彼の多彩な才能を疎んでいたという同級生、娘との婚約は断っておきながらアンジュと婚約したことをよく思っていない、軍将校らの名前がある。
人気者であろうとなかろうと、恨まれる時は恨まれる。まさに人生。
名簿1人ずつ洗っているが、目ぼしい対象は出てきていない。となれば、最悪このリストに載ってない可能性がある。
ファラデウス国民、いや、大陸中を含めた容疑者探し。
"令嬢をパーティー会場に手引きした存在"
"特別訓練を企画した存在"
"アルフレードを目的とする存在"
そして。
"ウィリアム班を中央へ異動命令を出した人物"
アルフレードを求めるならば、彼が1人の時を狙う方が早い。わざわざ西からアンジュを、さらに彼らを異動させたには、何かしら役割があるからだ。
西の壁、ウィリアム班。
風の精霊遣い、ウィリアム・スミス。
夜溶ける幻夢種のツキヨ・ルナール。
大精霊の力を誇るアンジュ・ブルナー。
捕縛の狙撃手、ペーター・ブラッカー。
西から侵入を企てる外からの敵を逃さず捕えてきた優秀な兵士。
何を企てているか分からないが、簡単に踊らされるほど優しい性格の持ち主はここにはいない。
「俺らはまだ奴らの掌で踊っている状態だ。一同気を抜かんように。何かあれば、考えすぎだと思うより前に話に来い」
「はっ」
「はっ」
「はっ」
班長の命令に部下3人は勇ましい声で応えた。
「そういう訳だ。午後からの合同訓練引き続き気合いを入れるぞ。ぬるま湯だろうと全力でことに当たれ!中央の奴らに西の恐ろしさを刻みつけるぞ」
ニヤリと笑うウィリアムの顔は果てしなく国民を守る公務員の為せるものではかった、と。短く刈り上げた髪を掻きながら後にピーターは語った。