シンデレラ・スキャンダル
23話 進め、前へ
◇◇◇
家を出る時から、ずっと鼓動が速い。卓也に会いに行くときは、その場所が近づいてくればくるほどに、自分の中から感情という類のものが消えていく感覚があった。胸の真ん中に真っ暗な穴が開いて、そこに人形のようになった自分が落ちていくような感じ。でも、今日は胸に穴は開いていない。鼓動だけがいつもより速いのだ。
天高く聳え立つガラス張りのビルを前に、深く息を吸い込み、目を閉じる。これぞ、天下のディアブロが日本本社を構えるビルディング。その荘厳さは、まさに日本経済の中枢たる風格を漂わせている。震えそうになるから、携帯電話の画面に優くんからのメッセージを表示させた。そこには、たくさんの龍介さんの笑顔。あんなにたくさんの写真を撮られているくせに、龍介さんは自分で写真を撮るのは苦手らしい。
「綾乃に写真を送りたいんだって。自撮りしている龍介さん。レアだよ!」
そんなメッセージと共に送られてきた写真の中の龍介さんは、雑誌やミュージックビデオとは別人のようにあどけない。 自撮りする龍介さんを撮る優くん。そして、徹さんからはその自撮りをする龍介さんと、それを盗撮しようとしている優くんの写真。畑中さんからは、またその三人と自分を上手く画面に収めた写真が「はしゃぎすぎ」というコメントと共に送られてきた。
「なんか……もう、大好き」
画面の中の屈託のない笑顔。それを見た瞬間、強張っていた肩から力が抜け、肺いっぱいに酸素が行き渡るのが分かった。指先から、じわりと体温が戻ってくる。この熱があれば、戦える。わたしは画面をタップして、「大好き」と小さく呟くと、携帯電話をバッグの奥にしまい込んだ。 それは、わたしだけの最強のお守り。
「前を向いて、真っ直ぐに」
そう心の中で唱えて、ガラスドアをくぐり抜けていく。
家を出る時から、ずっと鼓動が速い。卓也に会いに行くときは、その場所が近づいてくればくるほどに、自分の中から感情という類のものが消えていく感覚があった。胸の真ん中に真っ暗な穴が開いて、そこに人形のようになった自分が落ちていくような感じ。でも、今日は胸に穴は開いていない。鼓動だけがいつもより速いのだ。
天高く聳え立つガラス張りのビルを前に、深く息を吸い込み、目を閉じる。これぞ、天下のディアブロが日本本社を構えるビルディング。その荘厳さは、まさに日本経済の中枢たる風格を漂わせている。震えそうになるから、携帯電話の画面に優くんからのメッセージを表示させた。そこには、たくさんの龍介さんの笑顔。あんなにたくさんの写真を撮られているくせに、龍介さんは自分で写真を撮るのは苦手らしい。
「綾乃に写真を送りたいんだって。自撮りしている龍介さん。レアだよ!」
そんなメッセージと共に送られてきた写真の中の龍介さんは、雑誌やミュージックビデオとは別人のようにあどけない。 自撮りする龍介さんを撮る優くん。そして、徹さんからはその自撮りをする龍介さんと、それを盗撮しようとしている優くんの写真。畑中さんからは、またその三人と自分を上手く画面に収めた写真が「はしゃぎすぎ」というコメントと共に送られてきた。
「なんか……もう、大好き」
画面の中の屈託のない笑顔。それを見た瞬間、強張っていた肩から力が抜け、肺いっぱいに酸素が行き渡るのが分かった。指先から、じわりと体温が戻ってくる。この熱があれば、戦える。わたしは画面をタップして、「大好き」と小さく呟くと、携帯電話をバッグの奥にしまい込んだ。 それは、わたしだけの最強のお守り。
「前を向いて、真っ直ぐに」
そう心の中で唱えて、ガラスドアをくぐり抜けていく。