シンデレラ・スキャンダル
「そういう人じゃないわ。でも、あなたにわかってほしいとも思わない」

 彼の優しさも、涙も、温もりも。何一つ、汚させない。

「なに、恋とかしちゃってんの? 海外で出会った奴と盛り上がって日本で続くと思ってる? マジックだって。旅先での高揚感で、一時的に気が大きくなってるだけだ。そんなに純粋だったっけ? お前は、もっと現実を知っているはずだろ」

「わたしは、ただ——」

 言葉に詰まり、視線が揺らぐ。それを見たのか、卓也は薄く笑った。

「ああ、でも純粋だったね、綾乃は。お人好しで疑うことを知らなくて。だから時々無性に汚したくなるんだよ。もう少し大人になったほうがいいんじゃない? 綺麗事だけじゃ、この世界は生きていけないんだよ」

 なにもかもをわかっているような、この世の真理を悟ったような顔で、卓也は言い聞かせるように、諭すように眉根を寄せて告げる。わたしは、その瞳を強く見つめ返した。

「傷つくのは綾乃だよ。続かないって、絶対」

 畳みかけるような卓也の言葉は、確信に満ちていて、まるで未来を予言するかのように響く。

「やめて」
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