シンデレラ・スキャンダル
◇
一見するとお店には見えない一軒家の前で車が止まる。いつも通り、小さな入口から入ると、すぐに大きな声が聞こえてくる。
「っらしゃいませえぃ!」
「こんにちは」
「おお、綾乃ちゃん久しぶり! 栞ちゃんもう来てるよ。上の個室に通したから」
「いつもありがとうございます。ハイボールでお願いします」
「もう達郎が準備してんだろ」
彼の言う通り、カウンターの奥では達郎くんが細長いグラスに炭酸水を注いでいた。古民家を改装して作られた料理屋は、栞ちゃんと初めて来たときから毎月恒例の食事会で通い、もう今年で四年。
急いで階段を上がり、いつもの個室をノックして扉を引けばそこにはお人形さんみたいな女の子。
「綾乃さん!」
「栞ちゃん、ごめんね。遅くなって」
「いえ、わたしも五分前に来たので。それよりお仕事は大丈夫ですか?」
「いいの。今日はどうしてか一緒にいろって言われて。でも結局、卓也はどこかの女の人と出ていったからもう平気」
運ばれてきたハイボールを喉に一気に流し込むと炭酸が喉を通っていく。六本木のオシャレなバーで出されていた、よくわからない名前のカクテルより百倍おいしい。
「おいしいぃ」
「綾乃さん、お疲れ様でした。結構飲みましたね? 珍しく赤いです」
「それはもう。久しぶりにあんなに飲みました。あの短時間で」
綺麗な笑顔がテーブルの向かいで弾ける。それを見るだけで、全身から力が抜けていく。
そして、彼女はそのにこやかな顔のまま、下から大きな紙袋を取り出してテーブルの上に置いた。テーブルに置かれたときの音の鈍さから察するに、かなり重さがありそうな予感。
「これは、なにかな? 栞ちゃん?」
「忘れないうちにお渡ししますっ」
「……なにを?」
「やだな、綾乃さんってば。資料ですよ!」
仕方ないなとでも言いたげな笑顔が目の前で花開く。それはそれは可憐な花が。袋の中にはディスクが入っていると思われる大量のケース。何十枚とありそうなのは、気のせいじゃないはず。
「しりょう?」
「Legacyに決まってるじゃないですか!」
「ああ……」
ディアブロ社のレガシーシリーズの新車CMがLegacyに決まったことを彼女に話したとき、電話の向こうでは声にならないような悲鳴が響いていた。
Legacyとの食事会に参加すると報告したわたしに、「資料をお持ちします」と、今まで聞いたことがないような、やる気のある声で彼女が告げたのだ。
一見するとお店には見えない一軒家の前で車が止まる。いつも通り、小さな入口から入ると、すぐに大きな声が聞こえてくる。
「っらしゃいませえぃ!」
「こんにちは」
「おお、綾乃ちゃん久しぶり! 栞ちゃんもう来てるよ。上の個室に通したから」
「いつもありがとうございます。ハイボールでお願いします」
「もう達郎が準備してんだろ」
彼の言う通り、カウンターの奥では達郎くんが細長いグラスに炭酸水を注いでいた。古民家を改装して作られた料理屋は、栞ちゃんと初めて来たときから毎月恒例の食事会で通い、もう今年で四年。
急いで階段を上がり、いつもの個室をノックして扉を引けばそこにはお人形さんみたいな女の子。
「綾乃さん!」
「栞ちゃん、ごめんね。遅くなって」
「いえ、わたしも五分前に来たので。それよりお仕事は大丈夫ですか?」
「いいの。今日はどうしてか一緒にいろって言われて。でも結局、卓也はどこかの女の人と出ていったからもう平気」
運ばれてきたハイボールを喉に一気に流し込むと炭酸が喉を通っていく。六本木のオシャレなバーで出されていた、よくわからない名前のカクテルより百倍おいしい。
「おいしいぃ」
「綾乃さん、お疲れ様でした。結構飲みましたね? 珍しく赤いです」
「それはもう。久しぶりにあんなに飲みました。あの短時間で」
綺麗な笑顔がテーブルの向かいで弾ける。それを見るだけで、全身から力が抜けていく。
そして、彼女はそのにこやかな顔のまま、下から大きな紙袋を取り出してテーブルの上に置いた。テーブルに置かれたときの音の鈍さから察するに、かなり重さがありそうな予感。
「これは、なにかな? 栞ちゃん?」
「忘れないうちにお渡ししますっ」
「……なにを?」
「やだな、綾乃さんってば。資料ですよ!」
仕方ないなとでも言いたげな笑顔が目の前で花開く。それはそれは可憐な花が。袋の中にはディスクが入っていると思われる大量のケース。何十枚とありそうなのは、気のせいじゃないはず。
「しりょう?」
「Legacyに決まってるじゃないですか!」
「ああ……」
ディアブロ社のレガシーシリーズの新車CMがLegacyに決まったことを彼女に話したとき、電話の向こうでは声にならないような悲鳴が響いていた。
Legacyとの食事会に参加すると報告したわたしに、「資料をお持ちします」と、今まで聞いたことがないような、やる気のある声で彼女が告げたのだ。