シンデレラ・スキャンダル
6章 マイ・シンデレラ・ガール

26話 舞踏会の夜

◇◇◇

 会場からは音が漏れ聞こえるほどに鳴り響き、建物全体が揺れているようだ。

 ドレスアップを命じられた秘書のメンバーは、定時より三時間も早く会社を出て、用意されたスタジオに入り、メイクを施され、スタイリストに指示されるままに用意されたドレスに身を包んだ。

 ディアブロ社が用意したのは、体のラインが出るようにデザインされたブラックのドレスに、会社にいるときと同じ十センチのピンヒール。

 セクハラだと言われる世の中でもあるけれど、この会社の秘書は美しくいることも仕事の一つらしい。上品で華やかであることは秘書の最低条件。

 立場は秘書だけど、パーティーの席ではエスコートされる側になる。海外生活が多い卓也を含めて、ディアブロ社の人間はエスコートが身についている。背中が大きく開いたデザインのドレスだから、卓也の手が直接触れる。

「このドレス、派手すぎるわ。背中が……」

「似合ってるよ。俺が選んだんだ。いい女って感じじゃん」

 会場のスクリーンには、Legacyの新曲Dawnのミュージックビデオが映し出されている。改めてLegacyである彼らに会うのだと思うと、今更ながら不思議な感じがしてくる。

 卓也に促されながら会場を進めば、ミュージックビデオの中にいる人がそこにいた。ハワイから帰ってきてから、電話で話すことしかできていなかった人。電話で話した時には、行かないと言っていたはずの人。思わず声が出てしまいそうになり、慌てて俯いた。

「ディアブロの田辺です。今回はよろしく」

「秘書の、松嶋と申します」

 いつも通りと自分に言い聞かせながら、落ち着いた所作を心がける。頭を上げると、異様ににっこりと笑っている優くんと目が合う。そして、その隣にはサングラスの男。

 卓也の周りはすぐに事務所所属の美しい女性たちで埋められた。満足そうに笑う卓也に、胸を撫で下ろす。卓也から視線で「もういいよ」と言われて、小さく頷き、入り口近くに移動する。

 あとは帰りのタイミングだけ気をつければ大丈夫だろう。役員と一緒に参加する食事会ほど気を遣うものはない。会場を見渡せば、他の秘書たちもそれぞれ席についているようだ。

「こんばんは、松嶋さん」

 振り向くと、そこには完璧なビジネススマイルを浮かべた彼がいた。 でも、その瞳だけが、悪戯っぽく笑っている。サングラスが外された素顔は、わたしが知っている彼の姿。

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