シンデレラ・スキャンダル
「……こんばんは」

 言葉に表せない悔しさをこめて見つめれば、目の前の笑顔は更にはじける。

「そんな顔しなくても」

「来ないって言ってたのに」

 小さく頬を膨らませてみる。驚いたのは事実だけれど、久しぶりに会えた龍介さんにいつの間にか頬が緩んできてしまう。それをわかっているのか、彼はさらに笑みを深める。

「おいで。仁さんが後でこっちに来るから、その時に紹介するよ」

「……はい」

 仁さんは、Legacyのリーダー。その人に紹介してすると言われてしまえば、膨らませた頬は更に緩んで、もうふにゃふにゃになって、なんならニヤニヤする口元に合わせて動いている。

 それに気付いたらしい龍介さんが、クスクス笑う声が聞こえてくるけれど、わたしの意識は背中に触れる龍介さんの手の温かさに集中する。背中に手が触れている、ただそれだけのことで、わたしの頭の中はもう龍介さんでいっぱい。

 そして、促されるままに龍介さんと優くんと一緒のテーブルに座った。

 卓也の席は死角になっていて見えない席だった。自分の担当する役員の姿がわからないという状態が些か気になり、卓也の姿を探すように視線を動かしているわたしに「大丈夫だよ」と龍介さんの声が届いた。

「うちの事務所の子たちがうまくやるから」

「なんか落ち着きません」

「リラックスして、楽しんでいってください」

「お二人とも笑顔がわざとらしいです」

「そんなことないですよ、松嶋さん」

「もう……」

 龍介さんに埋め尽くされそうだった意識は、視界の隅に入った優くんの顔によって、かろうじて正常に引き戻される。
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