シンデレラ・スキャンダル
7話 午前〇時の灰かぶり
◇
食事会が終わり、一人で帰ろうとしていたわたしを捕まえると、彼は絶対に送ると言って譲らなかった。金髪にタトゥーのその人は、どうやら外見と中身がとことん違うらしい。龍介さんが呼んでくれたタクシーに、二人で乗り込んだ。
「龍介さん、一人でも大丈夫だったのに」
「送るって言ったでしょ。俺は男で綾乃ちゃんは女性なんだから、ちゃんと送らないと」
「そういうものですか?」
「男は女性を守るものだよ」
「……龍介さんって割と古風ですね」
「割とっていうか、結構古風だと思うよ。それは自覚ある」
そう言って彼は何度か首を小さく上下させる。
薄暗い後部座席には、同じベースボールキャップを被った男女が、近いとも遠いとも言い難い距離を保って座っている。部屋を出るときに、龍介さんはわたしに黒い帽子を被せて、自分も同じブランドと思われる帽子を被った。彼の言葉通り、帽子はたくさん持っているらしい。
ちらりと盗み見るように龍介さんの方を見れば、視線に気づいたのか彼がこちらを見て微笑んだ。
「明後日はお昼頃でいい?」
「え?」
「迎えに行く時間。リサが絶対に来てって言ってたでしょ」
「迎えに来てくれるんですか?」
そう聞いたわたしに、不思議そうな顔をしてから、「もちろん行くよ」と答える龍介さん。驚いているのはわたしのはずなのに、龍介さんが目を真ん丸にする。それがなんだかおかしくて笑ってしまえば、今度は龍介さんも笑って「なに」と拳を口元に当てた。
「龍介さんってすごいですね。どうしてそんなに優しいんですか?」
「そう? そんなことないよ」
「じゃあ、甘えちゃおうかな」
「甘えてくださいよ」
「ふふ。じゃあ、お昼頃迎えに来てもらってもいいですか?」
「うん」
そう答えた龍介さんの低く柔らかい声はとても優しいのに、なぜか安心するどころか少しだけ鼓動が早まって指の先まで脈打つ感覚がした。
わたしが泊まる貸し別荘に着くと、龍介さんはタクシーを一緒に降り、玄関の扉を開けてわたしに中に入るように促す。戸締りをするようにと今日、何度目かの念押しをされて、わたしは笑って頷いた。
「見送らなくていいから、ドア閉めたらすぐに鍵かけてね」
「はい、わかりました」
「……何かあったら、もし困ることがあったら、いつでも連絡して」
「はい。ありがとうございます」
「本当になんでもいいから」
彼と離れるのはたった一日だけ。二日後にはまた会えるのに、本気で心配してくれている龍介さんの声が、胸の奥を温める。彼の真剣な眼差しに、わたしはしっかりと頷いて見せた。このたった一日の別れが、なぜこれほどまでに寂しく、そして大切に感じられるのだろう。
「……じゃあ、おやすみ」
低く、甘い龍介さんの声が、耳元に響く。
「おやすみなさい」
言われたとおり、ドアを閉め、すぐに鍵をかけた。カチャリという小さな金属音が、わたしたちを隔てる現実の音のように響いた。
再び一人になり、重いドアの向こうに彼の気配が消えた途端、急に心細さが胸を満たした。龍介さんが隣に座っていた余韻がまだ残っているのに、突然押し寄せるこの孤独感はなんだろう。わたしは急いで首を振り、それを追い払おうとした。
食事会が終わり、一人で帰ろうとしていたわたしを捕まえると、彼は絶対に送ると言って譲らなかった。金髪にタトゥーのその人は、どうやら外見と中身がとことん違うらしい。龍介さんが呼んでくれたタクシーに、二人で乗り込んだ。
「龍介さん、一人でも大丈夫だったのに」
「送るって言ったでしょ。俺は男で綾乃ちゃんは女性なんだから、ちゃんと送らないと」
「そういうものですか?」
「男は女性を守るものだよ」
「……龍介さんって割と古風ですね」
「割とっていうか、結構古風だと思うよ。それは自覚ある」
そう言って彼は何度か首を小さく上下させる。
薄暗い後部座席には、同じベースボールキャップを被った男女が、近いとも遠いとも言い難い距離を保って座っている。部屋を出るときに、龍介さんはわたしに黒い帽子を被せて、自分も同じブランドと思われる帽子を被った。彼の言葉通り、帽子はたくさん持っているらしい。
ちらりと盗み見るように龍介さんの方を見れば、視線に気づいたのか彼がこちらを見て微笑んだ。
「明後日はお昼頃でいい?」
「え?」
「迎えに行く時間。リサが絶対に来てって言ってたでしょ」
「迎えに来てくれるんですか?」
そう聞いたわたしに、不思議そうな顔をしてから、「もちろん行くよ」と答える龍介さん。驚いているのはわたしのはずなのに、龍介さんが目を真ん丸にする。それがなんだかおかしくて笑ってしまえば、今度は龍介さんも笑って「なに」と拳を口元に当てた。
「龍介さんってすごいですね。どうしてそんなに優しいんですか?」
「そう? そんなことないよ」
「じゃあ、甘えちゃおうかな」
「甘えてくださいよ」
「ふふ。じゃあ、お昼頃迎えに来てもらってもいいですか?」
「うん」
そう答えた龍介さんの低く柔らかい声はとても優しいのに、なぜか安心するどころか少しだけ鼓動が早まって指の先まで脈打つ感覚がした。
わたしが泊まる貸し別荘に着くと、龍介さんはタクシーを一緒に降り、玄関の扉を開けてわたしに中に入るように促す。戸締りをするようにと今日、何度目かの念押しをされて、わたしは笑って頷いた。
「見送らなくていいから、ドア閉めたらすぐに鍵かけてね」
「はい、わかりました」
「……何かあったら、もし困ることがあったら、いつでも連絡して」
「はい。ありがとうございます」
「本当になんでもいいから」
彼と離れるのはたった一日だけ。二日後にはまた会えるのに、本気で心配してくれている龍介さんの声が、胸の奥を温める。彼の真剣な眼差しに、わたしはしっかりと頷いて見せた。このたった一日の別れが、なぜこれほどまでに寂しく、そして大切に感じられるのだろう。
「……じゃあ、おやすみ」
低く、甘い龍介さんの声が、耳元に響く。
「おやすみなさい」
言われたとおり、ドアを閉め、すぐに鍵をかけた。カチャリという小さな金属音が、わたしたちを隔てる現実の音のように響いた。
再び一人になり、重いドアの向こうに彼の気配が消えた途端、急に心細さが胸を満たした。龍介さんが隣に座っていた余韻がまだ残っているのに、突然押し寄せるこの孤独感はなんだろう。わたしは急いで首を振り、それを追い払おうとした。