シンデレラ・スキャンダル
「風呂、好きに使ってね。俺は、部屋にあるから」

「あ、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

わたしは、思わず胸に手を当てて、息を漏らした。

そういえば、この別荘には今、龍介さんとわたしの二人きりだったのだ。残りの部屋に泊まるはずの住人、つまり、明日のバーベキューパーティーに参加する友人たちは、まだ到着していないらしい。

昨日までの一人ぼっちの心細さや不安は、もうない。この広い家には、今、すぐそばに、龍介さんがいる。

「あ、あの、じゃあ、お風呂」

「ん」

声が上ずってしまったわたしに対して、彼はゆったりとした低い声で返事をする。それがなんだか居たたまれなくて、喉が詰まってもいないくせに咳払いを一つ、二つ。

「お風呂、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

意識をし始めてしまうと、全てが態度に出てしまう気がして、わたしはほとんど小走りでバスルームに向かった。ドアを閉める直前に、彼の視線がまだこちらを追っているような気がしたが、振り返る勇気はない。

バスルームの鍵をかけ、大きく息を吐く。鏡に映る自分の顔は、案の定、ほんのりと色味を増している。
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