シンデレラ・スキャンダル
そして、リビングとテラスに向かって買い物に行くと声をかけると、わたしの手を引いて家を出た。迎えに来たタクシーに乗り込むと、龍介さんが行き先を告げる。

やっぱり、あそこに行くんだ。龍介さんは、「結局は激安の殿堂」とことあるごとに言う。


龍介さんと二度目に会った激安の殿堂で、二人でカートを押しながら店内を巡る。龍介さんは上機嫌なようで微かに鼻歌混じり。鼻歌のはずなのに、伸びやかで美しく心地いい。

「綾乃ちゃん、お酒のこと気付いてくれてありがとう」

「秘書の職業病みたいなものです」

「そっか、秘書だって言ってたよね」

そんな会話をしながらビールやワインのボトルを次々にカートに入れていた時、彼がなにかを思い出したような表情でこちらを見た。

「そうだ、今日からスタッフと仲間が来るって言ってたんだけど、日本で仕事が終わらないみたいで遅れるって。天気が悪いらしくてさ、延期になったみたいで」

「そうなんですか。東京は台風が近づいているみたいですもんね」

接近した台風のせいで、東京は凄まじい暴風雨だと栞ちゃんから連絡がきていたことを思い出す。天気が悪くて延期になるその仕事は何だろうと思うけれど、人のプライベートに踏み込み過ぎるのもためらわれる。

「そうみたいだね。来週かな、合流するの」

「緊張してたからちょっとほっとしました。でも来週……緊張が先延ばしに」

「大丈夫だって。いい奴らだから」
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