シンデレラ・スキャンダル
「……どうだった?」

胸がきゅうきゅう鳴りました、なんてバカみたいなことは言えないから、一生懸命言葉を探す。でもトクトクと動いている心臓と違って、どうやら頭は停止しているみたい。

「綺麗で眩いというか。胸が高鳴るんですけど、ちょっと切なくもなります」

結局、月並みな言葉しか出てこない。もっと伝えたいことがあるはずなのに、それをどう伝えたらいいのかわからない。でも、龍介さんは穏やかな声で「ありがとう」と口にした。

「綾乃ちゃん、詞とか作ったことある?」

「作詞ですか?」

アーティストというものは、突拍子もないことを言い出すものなのか。そんな技術をわたしが持ち合わせているはずもない。わたしは、自分の顔の前で手を横にふる。なんなら首も一緒に。

「いやいやいや! できません」

「大丈夫だって。一緒に作ってみようよ。ね?」

「未知の世界すぎます。思いつくかな……」

「……俺はなんか言葉にならなくて、気持ちばかりが先走ってる感じ。あんまりこんなことないんだけど」

ピアノの音を響かせて、その鍵盤を見つめたまま彼が呟く。

「綾乃ちゃんと、作ってみたい」

その言葉は、どんな言葉よりも甘く、優しくわたしの胸を貫いた。彼が奏でる、切なくて優しいメロディーが耳に残っている。龍介さんの優しい眼差しで見つめられたら、もうどんな言葉も出てこなくて、気付いたら首が縦に動いていた。
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