仮面のアイドルの正体は、記憶を失った少年だった 「記憶を失った少年が、“仮面のアイドル”として生きる運命とは――?」

Scene12 収録後の挑発

拍手と笑い声がフェードアウトしていくスタジオ。
控室へ向かう廊下は、さっきまでの華やかさが嘘のように静まり返っていた。
ライトの熱がまだ頬に残るのに、空調の冷気が背中を撫でていく。

蓮はゆっくり歩き、控室のドアノブに手をかけた。

そのとき――

「……やっぱり、あなたよね」

背後から落とされた静かな声に、心臓がひときわ強く跳ねた。
振り返ると、廊下の照明の下に立つ璃子がいた。
さっきのテレビ用の笑顔は一切なく、素のまなざしだけが蓮を真っ直ぐ射抜いている。

「何のことですか」

低い声で返す。
握る指先に、わずかに力がこもった。

璃子は一歩ずつ、間合いを詰めてくる。
ヒールの音が乾いた廊下に落ちるたび、空気が硬く締まっていく。

「“宅麻大地”なんて名前……あなたには似合わない」

その言葉は、まるで刃のように胸を刺した。

「あなたはもっと、不器用で……でも優しい人だった」

息が浅くなる。喉が冷たくつまる。

「……やめてください」

絞った声は、震えを隠せない。

璃子のまつ毛がかすかに揺れた。

「どうして? ねぇ……私のこと、覚えてる?」

さらに一歩近づく。

「泣きそうになって、私の肩に顔を埋めた、あの夜のあなたを」

――汗で濡れたレッスン室。
――『泣きたいなら泣いていい。私だけが知ってればいいから』
――肩に触れた温度、指先の震え。

「……やめろ」

蓮は額に手を押し当て、一歩前へ踏み出していた。
胸が熱く疼く。握った拳がかすかに震える。

璃子はその変化を見逃さず、小さく息をのむ。
そして、ふっと柔らかく微笑んだ。

「そう。その顔。やっぱり、私の蓮だわ」

(俺は……宅麻大地だ。優香がそばにいてくれる。
 それなのに――なんで……こんなに胸が痛い)

廊下には誰もいない。
なのに、呼吸の音だけがやけに大きく響いていた。

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