運命の恋をした御曹司は、永遠にママと娘を愛し続ける
 不意にかけられた声に振り返ると、副社長の秘書を務める男性が、険しい表情を浮かべながら私の前に立っていた。私よりも年上の先輩で、ふだんはどこか柔らかい物腰の穏やかな人なのに、今日のその顔には、明らかにいつもとは違う緊張感が漂っていた。
 その表情を見た瞬間、これはきっと良い話ではない――そんな予感が、直感のように胸をよぎる。
「どうされましたか?」
「副社長が、お話があると……」
 私はその言葉に軽くうなずき、「わかりました」とひと言だけ返すと、静かに席を立ち部屋をでた。
 役員たちの部屋が並ぶのは、この広いオフィスのさらに奥にあるガラスの自動ドアの向こうで、中へ足を踏み入れると、高級ホテルを思わせるような内装が広がっている。
 五センチヒールのかかとが深い絨毯に沈みこみ、少し歩きづらさを感じるのは、きっと私の中にある憂鬱のせいもありかもしれない。
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