私と彼と彼のアンドロイド
 彼は最初はしどろもどろだったが、だんだんと説明に熱が入ってくる。
「で、中身のコンピューターというのはオンとオフで成立していて、つまり0と1で二進法なんだけど」
 それらの説明は当時の音緒には難しかった。
 だが、説明する彼の目は輝いていて、大人がこんなに夢中になる姿が新鮮だった。

 楽しかった、と父に言うと、それからもちょくちょく研究所に連れて行ってくれた。
 そのたびに光稀のところへ遊びに行った。

 夢を語る彼は大人なのに子どもみたいで面白かったし、ロボットで遊ばせてくれるのも楽しかった。
 仕事の邪魔だったろうし、面倒だっただろうと今は思うのだが、彼はそんなことを微塵も感じさせなかった。

 中学生になり、高校生になっても研究所に遊びに行っていた。
 彼が目的であることは周囲にバレていたと思う。が、当時の自分はバレていないつもりだったし、彼には気付かれていなかった。

 光稀は二十七歳で博士課程を卒業後、アメリカの研究所で一年契約の客員研究員として勤めた。
 その間はネットの動画通信を使い、たまに話をしていた。

 彼に契約先の研究所から就職の誘いがあったと知ったときには青ざめた。このままアメリカにいるなら失恋確定だろう。
 父から彼との結婚を提案されたとき、すぐさま頷いた。

 結婚が決まって舞い上がっていたある晩、父が誰かと電話をしているのを聞いてしまった。
「秋地くんには研究所を継いでもらうと話してあるからな、だから結婚を……」
 最後まで聞けずに、音緒は足を忍ばせてその場を離れた。

 父は彼をひきとめるために自分と彼との縁談を組んだのだ。前から彼の才能を欲しがっていたのは知っている。
 きっと父には気持ちがバレている。だから彼を手に入れるための道具に自分を使ったわけではないだろう。

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