私と彼と彼のアンドロイド
 だが、彼はどうだろうか。研究所がほしくて結婚を決めたのだろうか。
 いや、そうに違いない。でなければ十一歳も年下と結婚するはずがない。

 自分は愛されていない。確信したものの、彼の妻になる誘惑には勝てなかった。結婚して一緒に暮らせば好きになってくれるかもしれない期待もあった。

 政略結婚とはいえ、夫婦の触れ合いもあるだろうとどきどきしていた。
 大学入学前に籍を入れ、一年生の五月、式を挙げた。

 夜。
 緊張しながらホテルに着くと、彼は「疲れたでしょ、ゆっくり休んで」と別室を取って出て行ってしまった。音緒はぽかんとして、彼の背がドアの向こうに消えるのを見送ることしかできなかった。

 翌日、初めて行った新居は彼が用意した一軒家で、やはり「ゆっくり休んで」と寝室が別だった。
 翌日からも「慣れるまでゆっくりして」と言われ、ずっと別室。

 彼の書斎に行ったときには、自分の写真があるのを見て喜んだ。
アメリカ滞在時の写真も飾られていた。一緒にいたのは金髪の美女と金髪の男性。男性も映っているのに美女ばかりが気になった。彼は本当はこういう大人っぽい女性が好みだろうか。

 寝室が別であることに対して、勇気を出して聞いてみたことがあった。
「所長のお嬢さんに不埒な真似はできないからね」
 そう答えられて、絶望した。

 ——やっぱり彼は私が好きで結婚したわけじゃないんだ。
 その晩は寝室が別であることに感謝した。泣き声を聞かれなくて済んだから。

 そうして二年生となり、季節は五月。
 初めての結婚記念日は素敵なレストランでお祝いしてくれたが、一年たった今もなんだかんだと彼に理由をつけられて新婚旅行は行っていない。
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