「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
 いつの間にか、二メートルほど距離をあけて、蒔田を追いかけていた。

 振り返られたら、一巻の終わりだが。

 その場合は適当になにかを言って切り抜けよう。会社に忘れ物をしたとか言って。

「うん。じゃあ和貴によろしくな。おやすみ」

 ピッと電話を切る音。
 そしてポケットに携帯電話をしまう。
 いつもどおりの背中。
 会社へと戻る道筋。

 彼女は、蒔田の姿が消えていくまでを、見送っていた。

(あんな話し方もするんだ……)

 口調はさほど変わらない。でも声のトーンが、なんというか、

 慈愛に満ちていた。それは例えば、


 恋人に話すみたいに。


 彼女は、バッグから携帯電話を取り出した。

 着信なし、新着メールゼロ件。

 会社に戻れば山積みの仕事が待っている。

 それでも、親愛なる者と手短に、充実した会話を済ませた。

 多忙な蒔田のことが、彼女は、ほんのすこし、羨ましかった。

 *
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