「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
 ふぅと蒔田がため息をつく。

(呆れられた……)

 と思いきや。

 ぽんぽん、と彼女の頭を撫でる。

「待っとけ」

 と言って蒔田は、なかへと消えていった。

(そういうことされると……)

 ますます、止まらなくなるのだ。


 想いも、涙も。


 * * *

「帰るぞ」


 戻ってきた蒔田は、開口一番そう言った。「え。え? なんでですか」
「おまえの荷物はこれで全部か」
「え、あはい、そうですけど」
 わざわざ彼女のバッグを蒔田が持ってきてくれていた。
 彼女は反射的に足元を見た。よくある居酒屋の下駄ではなく、ハイヒールだ。
 蒔田も靴を履いている。いつもの革靴だ。
「みんなには体調が悪いからと言った。おれも帰る。大通り出てタクるぞ」
「え、え。ええっとあたしはでも――」さっき。

 二年次だからやることがあると言っていたではないか。

 その舌の根も乾かぬうちに、なにを言っているのだ、この男は。

 しかし、蒔田は、彼女の言い分など聞かず、しかも彼女の肘を掴み、さっさと歩き出す。

 俊足なのだこの男は。

 彼女は、走るようにして彼の後ろをついていく。
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