「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
「すまない。おれが急かしたせいか」
「いえ、おろしたての靴なんで……」

 かかとは見事に皮がむけて、開いた傷口がストッキングに貼りついている有り様。

 二万円もしたのに。一回履いてパーだなんて。

「最悪」
「脱げ」

 彼女と蒔田が言うのが同時だった。

「え!? えっ、なに言ってんですか、自慢じゃないですけどあたしボディに自信なんかありませんし」
「……すまなかった。とにかく、脱げ、靴を。それじゃあ歩けないだろ」
「あ、……靴。靴ですね。はい」

 妙な勘違いをして恥ずかしいじゃないか。

 再び咳払いをして靴を履く。

 と、なぜだか蒔田がそのハイヒールに指を入れてひょいと持った。

 と思うや否や、なんと、彼女は蒔田に抱きかかえられていた。

「うわあああああ!」

 彼女は絶叫した。

「……耳元で叫ぶなよ……」と蒔田は眉を寄せる。「着くまでの辛抱だ。耐えろ」
「耐えろっていうかあたし結構重いですよ」
 二人分のバッグに女性一人の体重。決して、軽くはない。
「痛むか?」と訊かれるが、 

 それどころじゃない。
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