「帰りたくないんだろ」~好きバレ! 俺様上司の溺愛が止まりません!~
 彼女は、今更ながら、『横抱きながらも抱かれている現実』を認識し、全身がものすごく熱くなった。

 逞しい上半身の固さが伝わる。男性のからだが。

(えっと、どうしよう……)

 とんでもなく、心地いい。

 そして、重いはずなのに文句も言わず黙々と歩く蒔田。なんだか、運ばれてる荷物みたいに自分が思えてきた。というより、意識しているのは自分ただ一人だけだ。

 蒔田は、『荷物』を運んでくれてるのだ。

 そう思うと、意識しているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

(荷物、荷物……)

 と意識せぬよう彼女は念じ続けた。

 だが、意識せぬように意識すること自体が無意識からもっとも遠い行為、だった。

 * * *

「立てるか」

 いいえ駄目です、と本当は答えてみたかった。

 蒔田は厳しいように見えて割りと甘えさせてくれる。なんだかんだ言って面倒見がいい。

 でもここは自力で立とうと思った。運んで頂いたぶん。

 二の足で立つのが変な感覚だった。痛むかかとは浮かせて左に重心をかけて立つ。腕時計を見れば時刻はまだ九時過ぎ。十時前には帰宅できるだろうか。
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