嗚呼、愛しの婚約者様
「王族として発言を取り消すわけにはいかない為、君には一度私との婚約を受け入れてもらう。そして君が成人を迎える誕生日までを猶予とし、君がマティアスの心を手に入れ、当初の企み通りユリアナ嬢を殺害できたなら、私は潔く身を引こう。どちらか一方でも仕損じれば、君にはそのまま私の妻になってもらう。その間、私も君の計画に協力を惜しまないと約束する」

「……都合が良すぎますわ」
 殿下のあまりに寛容な条件に不信感を抱き呟くと、何を考えているのか分からない殿下はニコリと笑う。
「愚かな君が愛おしいと言っただろう?」
 そして、無遠慮に私の頬を撫でた。

 まだ婚約者ではないというのに馴れ馴れしいその手を払うと、殿下はまるで物語に出てくる悪役のような顔で告げる。
「愛に溺れ、恋敵への憎悪だけであらぬ方向に努力する君が……私はもっと見たいんだ」
 どう考えても私への愛で吐いた言葉では無いはずなのに、この異常なほどの私への執着心は何なの?

 殿下に対して感じた恐怖を、冷静な表情に隠す。
「……分かりましたわ。貴方の言う通りに致します」
 断る理由もなく条件を受け入れると、彼は黒い心が滲み出た瞳で微笑んだ。

「あぁ、愛しの婚約者よ……どうか私を楽しませてくれ」

 狂った王太子と私の契約は、こうして結ばれたのだった。

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