嗚呼、愛しの婚約者様
 弱みを握られている分際で生意気な言葉だとは思いつつも、私は「丁重にお断り致しますわ」と礼儀だけは意識して謝罪をした。

 すると殿下は何やら考えるような素振りをし、少しすると、また意味ありげな頬笑みを見せた。
 今度はどんな風に私を煽るのかしら。それとも脅すのかしら。次に殿下の吐く言葉を頭の中で想像していると、殿下は思いもよらない提案を持ち掛けた。

「それなら、私がユリアナ嬢の殺害計画、そしてマティアスの心を君の物にするため協力する、というのはどうだ?」
「……今、なんと?」

 意味の分からない発言に思わず確認すると、殿下は相変わらずの清々しい顔をして「私が君に協力しよう」と再度告げた。

 一体どういう意味なの。私を妻に迎えたいというのに、マティアス様の心を私に向けるため協力してくれるだなんて、言葉の辻褄が合わないじゃない。
 更にはユリアナの殺害に関しても協力するだなんて、王族としてこんなに堂々と言っていいことでは無いはずだ。

 殿下の思考が読めず混乱していると、私の混乱を他所に、殿下は更に続ける。
「勿論、ただ協力するだけではない。それだけだと私に利点がないからな」
「……では、他に条件が?」
 殿下は微笑みを絶やさず、しかし恐ろしいほどに赤黒い瞳で、私を捉える。

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