治療不可能な恋をした
目が覚めた瞬間、隣にあったはずのぬくもりが消えていた。
理人は、ゆっくりと瞼を開ける。淡い朝の光が、嫌味のようにカーテンの隙間から差し込んでいた。
ベッドの片側には、交わった名残だけが残っていた。
「……」
まだ半分ほど熱の残るその痕跡に、無意識に手を伸ばす。指先に、微かな気配すら残っていなかった。
周囲を見渡せば、テーブルの上に置かれた飲みかけのコップも、脱ぎ捨てられたままの自分の服も、夜の名残を思わせる。
なのに、梨乃の姿だけが、どこにもなかった。
しん、と静まり返った部屋の中に、じわじわと重い感情が湧き上がってくる。
やってしまった、という感覚。
同時に一夜だけの関係に終わった現実が、理人の胸に鈍い痛みを落とした。
(……ああ、逃げられたんだな)
ベッドに半身を起こし、ぼんやりと自嘲気味に息を吐く。
昨夜、自分の気持ちは確かだった。衝動でも、遊びでもなかった。ただ、彼女を欲していた。ほんの少しでも特別に近づける気がしていた。
けれど──梨乃にとっては、そうじゃなかった。
一夜限りの関係。それが、彼女の答えだったんだ。
理人は、手のひらで顔を覆った。自分だけが本気だったみたいに思えて、ひどく惨めで、みっともなかった。
(……馬鹿みてぇ)
理人は短く息を吐き、ベッドの端に座り込む。冷えたシーツの感触が、やけに現実味を持って胸を抉った。
──これが、失恋。
その事実が、じわじわと体の芯に沈んでいった。
梨乃とは、それきりだった。
連絡先も知らないし、勤務先も別。同窓会に梨乃が顔を出すこともなく、そうなれば会えるはずもない。
終わったんだ、と。その言葉だけが、鉛のように重く胸の底に残り続けた。