治療不可能な恋をした
近づこうとすれば、逃げる。一歩距離を詰めれば、ふっとその手のひらから零れ落ちる。
一体どこまで繰り返せば──どれだけ追いかければ、自分を“ただの同期”以外として見てくれるのか。
その答えも見えないまま、理人の胸の奥では焦りと苛立ちが日に日に積もっていった。
そんな折に迎えた大阪での全国小児疾患学会。
理人も梨乃も参加者として名を連ねることになった。会場で同じセッションを聞き、自然な流れで同じ懇親会へ足を運ぶ。
会場は、華やかさと熱気に包まれていた。例のごとく、理人は自分に興味を持った医療関係者や顔見知りの同期たちに囲まれ、次々に声を掛けられていた。
「逢坂先生、今日の発表、すごく良かったです!」
「今度ぜひ、一度ゆっくりお食事でも」
「理人〜久しぶり!元気してた?」
「今度、例のメンツで飲み直そうよ」
そんな言葉に適度な笑顔で応じ自由に身動きが取れないながらも、理人の意識はずっと、ひとりの姿を探していた。
「──逢坂、ちょっと」
ふいに肩を叩かれ振り向くと、黒川が軽く顎をしゃくってみせた。周囲にいた医療関係者や同期の輪から、半ば引っ張るように理人を連れ出す。
「……なんだよ」
人混みから少し離れた壁際。黒川は片手をポケットに入れながら、にやりと笑った。
「お前ってさ、案外わかりやすいよな」
「は?」
「探してんだろ、仁科さんのこと」
図星を突かれ、理人はわずかに眉をひそめた。
「見てりゃわかるっつーの。つか大学の時からそうだったじゃん。卒業パーティーの後も彼女追っかけて消えてったし」
「……」
「たぶんフラれたんだろうなって、誰も言わなかったけど。知ってるやつは知ってるぞ?」
からかうような声に、理人は苦い顔で肩をすくめた。
「そうだけど。……で、なに?揶揄うために連れ出したわけ?」
「違うって」
黒川は視線を横に流しながら、口の端を上げた。