治療不可能な恋をした
午後の小児病棟。
ナースステーションから回診用のファイルを受け取り、梨乃は白石と並んでその廊下を歩いていた。
「そういえば。外科の新しい先生はどうでした?」
カルテをめくりながらの白石の問いかけに、梨乃は一瞬だけ指を止めた。
「……特に問題はなかったです。手際も良かったですし、患者にも丁寧でした」
梨乃はそう言いながら、カルテに視線を落としたまま、淡々と続ける。
「これから一緒に診る機会も出てくると思いますけど、私達との連携もしやすそうな方でしたよ」
「そうなんだ。気難しい人じゃなくて、なんだか安心しました」
「……」
白石が笑みをこぼしながらそう言うのに、梨乃もわずかに口元を緩めた。
(気難しい、とは無縁の人だな……)
気さくで、誰にでも分け隔てなく話せるタイプ。大学時代と変わらない雰囲気にどこかほっとする自分がいることに、梨乃は内心で小さく驚いていた。
そのまま雑談をしながら歩みを進め、途中の分かれ道で、白石がカルテを見直しながら改めて口を開く。
「じゃあ私は西側の病室から行ってきますね。後でナースステーションで」
「はい。お願いします」
そう応じた梨乃も、別の病室の方へと静かに足を向ける。
午後の回診は慌ただしさこそないものの、確認すべきことは多い。経過観察中の患者の呼吸状態、点滴の管理、保護者への説明──。
一つひとつを丁寧にこなしながら、梨乃は慎重に診察を終えていった。