治療不可能な恋をした

「いま平気?少し時間いい?」

そう声をかけながら、理人は手にしていたタブレットを梨乃の視界にかざした。

「はい、構いません」

そう返事をし、二人でナースステーションの一角に並ぶ。カルテとタブレットを見比べながら、互いの情報をすり合わせていく。

「心外で検討中の子がいるだろ。2歳の、ASD(心房中隔欠損)の男の子」

「はい。風邪をひきやすくて、この前も咳が長引いてました」

「そう、その子。外科的な介入をそろそろ視野に入れようって話が出てて。小児科のほうで経過どう見てるか、あらためて聞いておきたくて」

梨乃は頷き、ファイルを手繰りながら患者名を確認する。

「成長曲線はやや緩やかですが、発達の遅れは特にありません。肺炎には至ってませんが、気道感染は多い印象です。今は落ち着いてますけど」

「なるほど。じゃあ、全身状態的にはすぐオペって感じではないけど、感染リスクのコントロールは課題ってとこかな」

「ええ。お母様も手術のことを少し気にされていたので、何か話が進むようなら、こちらでもフォローします」

「助かる。うちでも近いうちにカンファにかける予定だから、また正式に相談回すわ」

理人はそう言って端末を閉じると、わずかに視線を持ち上げ、気軽な笑みを向けた。

「やっぱ聞いといてよかった。仁科、ありがとな」

「いえ……」

ぎこちなく返しながら梨乃はふと、こうして隣で会話をしていること自体にわずかな不思議を感じていた。

学生時代、同じグループにいたこともなければ、特別親しくもなかった相手。

それが今、こうして自然に医者同士として、患者の話をしている。

(別世界の人だと思ってたのにな……)
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