治療不可能な恋をした
梨乃はその言葉に、思わず瞬きをする。
冗談っぽく笑ってはいるけれど、それがどういう意味なのか、すぐには掴めなかった。どこかからかっているようにも聞こえるし、ほんのり懐かしさを滲ませているようにも感じられる。
「……どういう意味ですか、それ」
そう問いながらも、声は少しだけ硬くなる。
理人は肩を揺らし、気楽そうに笑った。
「さあ。どういう意味だろうね?」
どこか意味深めいた、からかうような言葉を残すと、理人は手に持っていたタブレットを胸の前で軽く叩いた。
「じゃ、俺はそろそろ戻るよ」
そう言いながら、理人は二人に軽く頭を下げる。
「白石先生、またそのうち。仁科も──ありがとな」
最後にちらりと視線を向けて微笑むと、そのままポケットに手を突っ込み、ナースステーションをあとにする。
あっけらかんとした歩き方。看護師達の視線を一身に受けながら、それを気にすることもなく何事もなかったかのように去っていった。
残された梨乃は、手元のファイルを見つめたままその背中を見つめていた。
──本当になんなの、さっきから。
軽い調子で振る舞っているくせに、どこか引っかかる。
理人の言葉も、視線も、タイミングも。ただの同期のはずなのに、妙に意識してしまっている自分にも、また小さな苛立ちが募る。