治療不可能な恋をした
夜の定食屋。テーブル席に向かい合って座ったふたりの前には、湯気の立つ定食と湯飲みが置かれていた。
「じゃ、乾杯……って言ってもお茶だけど」
理人が笑って湯飲みを持ち上げ、梨乃も小さく湯呑みを掲げながらそれに倣う。
「……お疲れさまでした」
「ん、おつかれ」
湯飲みを軽く合わせる。カチン、と控えめな音が鳴った。
最初はごく自然に、仕事の延長のような会話が続いた。
「そういえばさっきのASDの子、やっぱり近いうちにオペかなって話になったんだよね」
「そうですか。確かに呼吸状態も落ち着いてますし、できれば体力があるうちに進めてあげたいですね。ご両親も不安はありつつも理解してくださってるので、お話はしやすいかと」
「うん。で、こっちでスケジュール調整しておくから、術前のデータも整理してもらえる?あと余力があれば患者のフォローも頼みたい」
「もちろんです」
テンポよく交わされる会話は、まるで昼間のナースステーションの延長のようだった。
けれど、ふとした沈黙のあと、理人が箸を置き、少し表情をゆるめる。
「……しかし、また仁科とこうして会うとはな」