治療不可能な恋をした
菜々美の声は震えていたが、その叫びはあまりに理不尽で、現実から目を逸らす抗議にしか聞こえなかった。
「こんなはずじゃなかった!私だって、こんな冴えないままじゃなくて、理人さんに愛される女になれるはずなのに……! どうして、その女なんですか……!」
言葉の端々に自己卑下と歪んだ羨望が混じり、理想と現実のねじれが怒りとなって梨乃に向けられる。
梨乃は思わず一歩退いた。理人の背後で守られているはずなのに、菜々美の執着の圧が迫ってくる。
理人は無言で梨乃を庇い、鋭い眼差しで菜々美を射抜いた。
「……今、ようやく分かった。お前の戯言の理由が」
怒りを押し殺した低い声。その冷徹さは怒鳴り散らすよりも残酷で、梨乃の胸にもぞくりと響く。
「……お前は、俺が好きなんじゃない。"誰もが羨むような男を手に入れた自分"に酔いたいだけだ」
凍りつくような冷たさと、揺るがぬ意思を帯びた声に、菜々美の目が一瞬見開かれる。
「そ……そんなこと……!」
必死の否定は力を欠き、反論にはならなかった。理人は一歩踏み出し、梨乃を背に隠したまま、容赦なく言い放つ。