治療不可能な恋をした
そのまま駐車場まで歩くと、理人がトランクを車の後部に積み込み、梨乃は助手席に腰を下ろした。
シートベルトを締め終えると、理人が運転席に滑り込み、軽くハンドルを握る。その仕草一つにも落ち着きがあって、梨乃は思わず視線を追ってしまう。
「準備オッケー?」
「うん、大丈夫」
エンジンが静かにかかり、車はゆっくりと動き出す。
観光地までは二時間ほど。話題は自然と旅行のあれこれや、紅葉の見どころの確認に移り、車内は穏やかな空気に包まれていた。
やがて窓の外に赤や黄色の山々が広がりはじめ、梨乃は思わず身を乗り出す。
「わ、すごい。理人も見える? 真っ赤ですごくきれいだよ」
「見えてる。時期ピッタリだったな」
短く答えた理人の声には、柔らかな笑みが滲んでいた。無意識に口元が緩んでいるのが分かる。言葉にしなくても、視線や息づかいの端々から伝わる愛おしさに、梨乃の胸の奥がふっと熱を帯びる。
自分がこんなふうに誰かに想われていることが、まだ少し信じられない。
そんな思いに気づかぬふりをしながら、彼と交わす何気ない会話が心地よくて、時間はあっという間に過ぎていった。
「もうすぐ着くぞ」
理人の言葉に合わせて窓の外をのぞくと、落ち着いた佇まいのホテルが視界に入る。
梨乃は自然と背筋を伸ばし、胸の奥で高鳴る期待と緊張を抱きながら、車はチェックインのための駐車スペースへと進んでいった。