治療不可能な恋をした
外に出ると、澄みきった秋の空気が頬をかすめた。ホテルから続く石畳の小径を抜ければ、渓谷沿いの遊歩道が広がり、両側の木々が赤や橙に燃えるように染まっている。
「わぁ……!」
思わず声を上げると、すぐ横で理人も足を止めた。
「……景観として完成してるな、これ。人が集まるのがわかる気がする」
「うん。直接見るともっと幻想的だね」
遊歩道には同じように紅葉狩りを楽しむ観光客が行き交い、カメラを構える人や談笑する家族連れの声があちこちから聞こえてくる。
それでも、梨乃にとって一番近い存在は隣を歩く理人で、雑踏の中にいても妙に二人だけの空間に感じられる。
「理人、見て。ほらあそこ……渓流の水面まで真っ赤だよ」
指さした先に視線を向けた理人が、ふっと目を細める。
「ほんとだ。写真じゃ伝わらないやつだな」
「うん、そうだね……」
川の流れが光を反射し、落ち葉がさらさらと浮かび流れていく。耳に届くざわめきさえも風景の一部に溶け込んで、穏やかな心地よさを生み出していた。
やがて人だかりの途切れた展望台に差しかかり、二人で並んで欄干に手を置く。目の前には渓谷全体を染め上げるような紅葉が広がっていた。
「連れてきてくれてありがとう、理人。すごく楽しい」
「……ああ」
短く返した理人の横顔は、景色ではなく梨乃の頬に映る赤みを追っているように見えて、梨乃は慌てて視線を外した。