治療不可能な恋をした


昼休みの食堂は、ざわめきと食器の音に包まれていた。

窓際の長テーブルにはちょうど休憩が重なった数人の医師が集まり、それぞれにサンドイッチやパスタを前にして、他愛のない雑談に花を咲かせている。

梨乃もその一角に座り、スープをすくいながら合間に相槌を打っていた。話題は外来の混雑具合や、当直中のトラブルなど、どこにでもある愚痴混じりの内容だ。

「それにしても、逢坂先生ってさ」

そんな中、ふいに向かいに座っていた白石が言った。

「どこにいても目立ちますよね。今朝外来前に見かけたんですけど、さっそく若手ナース達に囲まれてて。なんか、いつ見ても誰かと話してるイメージありません?」

「あ、それ、私も見ました。人気ですよね〜あの人。なんか芸能人みたいな存在感あるし」

「まあ、顔もいいしね。しかも外科で腕もいいって話ですし、そりゃモテますよ」

軽口が飛び交い、周囲に笑いが広がる。

梨乃は黙ってスープを口に運んだまま、内心だけで小さく息を吐いた。

ふいに「そういえば、」と白石が言って、スマホを取り出した。

「これ、知ってます?たまたま流れてきたんだけど──」

そして、画面をくるりとこちらに向ける。
< 34 / 306 >

この作品をシェア

pagetop