治療不可能な恋をした

飲み会は、終盤に差し掛かってもなおにぎやかな笑い声とグラスの音に包まれていた。

「このあとの二次会、カラオケ行きましょうよ~!」

「逢坂先生も行きますよね?」

誰かの明るい声に、また別の誰かがはしゃぐように応じる。そのやりとりが遠くで繰り返されるなか、梨乃はゆっくりと鞄のストラップを手に取った。

(……そろそろ帰ろう)

空気に当てられたのか、ひどく疲れていた。

わいわいとした喧噪に身を置いているだけで、体の芯からじんわりと疲労が広がっていくようだった。

「すみません。林先生にもご挨拶できたので、私はこれで失礼しますね」

静かに席を立つと、すぐ隣の白石が顔を上げた。

「えっ、もう?あ、でも、お疲れさまでした! 帰り道、気をつけてくださいね」

「ありがとうございます」

笑顔を返し、軽く頭を下げる。そのとき手にした鞄がふと肩から滑り落ちそうになり、それを慌てて持ち直す。自分でも驚くほど、指先に力が入っていなかった。

(これは……思った以上に疲れてるな)

目の奥がじんと重い。お酒はたいして飲んでいないのに、頭の中だけがずっと騒がしい気がした。

ふと視線を巡らせると、談笑の輪のひとつが目に入る。けれど立ち止まることはせず、そのまま視線を戻し、静かに出口へと歩き出した。

「お疲れさまでした」

小さくそう言って、梨乃は店の外へと足を向けた。

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