治療不可能な恋をした
外に出ると、空気はほんの少し湿っていた。
アスファルトに残った熱気がじわりと上がってきて、喧騒とは違う種類の重さが肌にまとわりつく。
肩から鞄をかけ直しながら、梨乃は人通りの多い通りを歩き出す。週末の夜ということもあり、周囲にはまだ飲み足りない人たちが溢れていた。
(この時間でも、街ってこんなに元気なんだ)
梨乃はひとり、歩道の端を静かに歩いた。力の抜けた腕からまた鞄が落ちそうになり、掛け直す。深く息を吸うと、ビールと油の匂いがどこからか漂ってきてほんの少しだけ胃が重たくなる。
(電車……まだあるよね)
時間も、帰る手段も分かっているのに、足取りは自然とゆっくりになっていた。
目の前に広がるにぎわいを、どこか別世界のように感じる。自分も、さっきまであの輪の中にいたはずなのに。
(……なんか、不思議な感じ)
ぼんやりとそんなことを考えながら、信号が赤になり、立ち止まったときだった。
「ねえ、お姉さん。今、帰り?」
ふいにかけられた声に、わずかに肩が動く。
横を向くと、細身のスーツに身を包んだ若い男が笑顔を浮かべて立っていた。
髪は丁寧にセットされ、整った顔立ちをしていた。どこか人懐っこさを前に押し出すような雰囲気で、後ろには数人、似たような装いの男たちが立っていた。
ホストの呼び込みだと、すぐに察しがついた。