治療不可能な恋をした
繁華街の一角に立てば、こういう声をかけられるのも珍しくない。そう思いながら、梨乃はやんわりと口を開く。
「すみません……終電で急いでるので」
「え〜、そんな冷たいこと言わないでよ〜」
男は笑みを崩さず、歩調を合わせてくる。
「お姉さん、仕事帰りでしょ?めっちゃ疲れた顔してる。ちょっと一杯、癒やされてこ?」
軽口めいていながら、どこか手慣れた調子の声その軽さが、かえって警戒心を刺激する。
「いや、あの、」
「ウチ、静かでいいとこだよ。話すだけでも全然いいからさ。お姉さん美人だし、むしろ俺が癒やされたいくらい」
そう言ってわざとらしく肩をすくめながら、一歩踏み出してくる。笑顔はそのままなのに、梨乃の肌に、じわりと警戒がにじむ。
「だからさ──ほんのちょっとだけ。ね?」
その瞬間、梨乃の身体がぴたりと強張る。
普段ならさらりと受け流せるような呼び込みのはずだった。でも、今日は違った。
(……息が、苦しい)
飲み会の騒がしさにあてられ、人混みに疲れ、何もかもが重くのしかかり、思うように声が出ない。足がすくむ。
「こ、困ります……っ」
やっとの思いでかすれた声を絞り出すと、喉の奥がぎゅっと締まるのを感じた。呼吸が浅くなり、胸がびりびりと痛む。
──そのときだった。