治療不可能な恋をした
逢坂理人──
大学の六年間を共に過ごした同期で、心臓外科専攻。勉強もできて、腕もあって、何より周囲に人が絶えないタイプだった。
誰にでも明るく、気さくに声をかける。どんな時もいつも話題の中心にいて、先輩にも後輩にも男女問わず慕われる、まさに“陽の男”。
梨乃とは何もかもが正反対だった。
地味で不器用な自分が、彼と深く関わることなんて、本来なかった。
──たった一度、あの夜までは。
卒業式後の打ち上げの帰り、なんとなく流れで朝まで一緒に過ごした。
べつに好きだったわけでもない。ただその場の空気と酔いと、少しだけ胸に溜まっていた孤独が理人という“手の届かない存在”に傾いただけ。
だからこそ、早朝、彼の寝息を聞きながらそっと部屋を出た。
あれは、なかったこと。
そう決めて、これまでずっと蓋をしてきた。
──なのに。
「仁科?」
名前を呼ばれ、ハッと我にかえる。
理人は片眉を上げ、どこかいたずらめいた目でこちらを見ていた。
「……失礼しました。少しぼんやりしていました」
梨乃は表情を崩さず、すぐにカルテを抱えて頭を下げた。