治療不可能な恋をした
他人行儀なその挨拶に、理人はあきれたように小さく鼻を鳴らした。
「おいおい、久しぶりに会った同期にその対応はつめたくね?」
「業務中ですので」
「お前ほんと、そういうとこマジで変わってねえな」
理人は少し肩をすくめながら笑う。けれどその声色には、どこか懐かしさがにじんでいた。
「そう言われましても……仕事中ですので」
「はいはい。相変わらず真面目でいらっしゃる」
理人は苦笑しながらも、あくまで楽しげに絡み続ける。
「ってか仁科さぁ、お前全然同窓会とか顔出さないよな?なんで?ていうか、今どこ住んでんの? 実家?」
「……それ、仕事に関係ありますか?」
「いや、ただの雑談」
「では、今は必要ないかと」
相変わらず淡々と返す梨乃に、理人は「出たよ」と小さく笑いながら頭をかく。
「でもまあ、元気そうでよかったよ」
ぽつりと、少しだけトーンを落としたその言葉に、梨乃は手元のカルテをめくるふりをして、無言でやり過ごした。
──これは仕事。
忘れたはずの過去も、関係も、もう持ち込むつもりはない。
「患者さん、そろそろいらっしゃると思います。評価に入りましょう」
「はいよ。お手柔らかに頼むわ、梨乃せんせ」
軽口に混じるほんの一瞬のまなざしが、思い出すはずのなかった一夜を呼び起こすようで──
梨乃は、胸の内にそっと蓋をした。