治療不可能な恋をした
自分でも、なぜ喧嘩腰に言い返してしまったのか分からない。けれど男の前に出て、遮るように立ったあのときの理人の背中が、胸に突き刺さって離れない。
一呼吸おいて、梨乃は落ち着いた声で問いかけた。
「……どうして、ここに?」
視線を逸らさず、真っすぐに理人を見上げる。
(だって逢坂くんは、あのまま二次会に行くと思ってた)
あのとき、理人は確かに笑っていた。看護師たちに囲まれて、話しかけられて、いつも通りの軽やかで、余裕のある顔で。
こちらのことなんか気にも留めていないような、そんなふうに見えたのに。
「……お前が、ひとりで先に出てったのが見えたから」
ぽつりと落とされた言葉。理人はわずかに目を伏せ、行き場を失った手をポケットにしまい込んだ
「こんな時間に繁華街を女ひとりで歩くなんて、普通に考えて危ないだろ。……案の定、タチの悪いキャッチなんかに引っかかりやがって」
その声には怒りよりも強く、別の何かが混じって聞こえた。苛立ちと、心配。それをうまく隠せずにいるような、そんな響きだった。
ふいに言葉を切った理人は、ほんの一瞬だけ目を細めて、梨乃を見下ろす。
「癒されるとか、言ってたよな。……そうされたいわけ?ああいうのに」
どこか責めているような口ぶり。言葉の端々に、棘が滲んでいた。
(……癒やされたいなんて、そんな気持ちでいたわけじゃない)
そう言い返そうとして、梨乃はぐっと唇を噛んだ。