治療不可能な恋をした
「──そんなわけ、ないじゃない……」
ふいに口をついて出た声は、いつもの丁寧な言葉づかいじゃなかった。自分でも気づかぬうちに感情があふれ、言葉のかたちを変えていた。
「……もう、いいよ。私はタクシー拾って帰るから、逢坂先生は戻りなよ。二次会、みんな待ってるんでしょ」
淡々とした声を装って告げる。心の中ではざわざわとしたものが渦巻いていたけれど、それを見せるわけにはいかなかった。
「……は?」
理人が低く声を返す。その眉がわずかにひそめられる。
「なんで俺が戻んなきゃいけないんだよ」
「……え?だって…」
視線を逸らしながら、梨乃は息をひとつ吸い、無理に笑った。
「……そんな、私なんかにまで、優しくしようとしなくていいよ」
その声は穏やかだった。でもその奥に、言いようのない棘がにじんでいた。
「……酔った勢いで一回寝たくらいの相手に、そこまで気を遣う必要ないでしょ」
言い切ったあと、自分でも少し震えるのがわかった。突き放すように言ったはずなのに、胸の奥に残るのは、すっきりとしない違和感だけ。
けれど、理人は即座に声を返した。
「──勢いなんかじゃねぇよ」