治療不可能な恋をした
午後のセッションには結局、理人は戻ってこなかった。昼休憩に同期たちに囲まれたまま廊下へ消えていった彼の姿が、ふと脳裏に浮かぶ。
そのまま時間は過ぎ、学会のプログラムは夕方にはすべて終了していた。
そして今──参加者たちが集う懇親会の会場には、すでに多くの人が集まり始めている。
梨乃は受付を済ませ、会場内の一角に立っていた。
高い天井と煌びやかなシャンデリアがきらめくホテルの宴会場には、正装に着替えた医師たちが名札を胸に談笑しながらグラスを傾けている。
(……こういうの、やっぱり少し苦手だな…)
けれど、今日は発表者としての参加。医局からも「顔だけでも出しておいて」と言われていた手前、行かないという選択肢はない。
「……はあ」
かすかに漏れたため息は、広い会場のざわめきにかき消されていく。
どこか落ち着かない気持ちで、梨乃は周囲に視線を巡らせた。
あちらこちらで、各病院の関係者たちが名刺を交換し、あいさつを交わしている。立食形式のテーブルには、色とりどりの料理が並び、グラスを手にしたスタッフが行き交っていた。
気持ちを切り替えなきゃ。これは仕事なんだから。
小さく息を吸って背筋を伸ばすと、梨乃は会場の奥へとゆっくり歩き出した。