治療不可能な恋をした
「で、実際どうなんだよ」
誰かの一言に、視線が集まる。
「なにが」
「いや彼女だよ。色々遊んでるって話はよく聞くけど、お前から卒業以来そういう話聞かねえし」
──そのやりとりは、梨乃のいる場所までかすかに届いてきた。
(……やっぱり、そうなんだ)
どこかでわかっていたことだった。
ランチ中に聞いた、看護師とのデートの話。外来スタッフの間で交わされる、何気ない噂話。彼が今も昔も、誰かに深く傾くことなく軽やかに交友を重ねていることは、うすうす感じていた。
(でも、聞きたくない)
関係ないはずのその会話に、どうしようもなく胸が痛んだ。思った以上に傷ついている自分に、気づいてしまう。
グラスの中で、氷がカランと音を立てる。
視線を逸らし、その場から離れ、近くのテーブルへと身体を向けた。
お酒はあまり得意ではないけれど、名前も知らないカクテルを手に取ってぐっと口に含む。甘さの奥に、じわりと熱がのぼってくる。
(……こんなのどうかしてる。おかしいよ、私)
これが自分と彼の、当たり前の距離。どうやっても越えられない壁の向こう側にいる人。
別に何かを言われたわけでもない。思わせぶりな何かをされたわけでもない。
それなのに少しでも彼に近づけるかもしれないなんて、期待を抱いて。ただの雑談に、勝手に胸を痛めてる。