治療不可能な恋をした
「……それで、なんでそんなに酔うまで飲んだんだよ」
静かな部屋の中に、理人の声が落ちた。
顔を上げると、ソファに座る彼はまっすぐこちらを見ていた。心を見透かすような静かな視線に梨乃は一瞬だけ目を伏せ、それから小さく息を吐いた。
「……学会の発表、無事に終わったから。たぶん、気が緩んだんだと思う。解放感、みたいな……」
そう言って、誤魔化すしかなかった。
本当は、理人の存在がどうしても遠くて手が届かないことを再認識させられて、心の中がどうしようもなく波立ったから。
けれど、そんなことは言えるはずもなかった。
「……なんだそれ」
理人がぽつりと呟く。
「大学卒業のときもそうだったよな。なんかから解放されたら、飲み過ぎて……」
そこまで言って、ふっと笑った。
「ほんと、お前って極端なんだよ。真面目に詰め込んで、いざ力抜いたら、急に突飛なことしてこうやって崩れるんだから」
肩の力が抜けたようなその笑顔は、どこか懐かしくて、梨乃の胸を優しく撫でるようだった。
(……ああ、ずるい)
笑いかけられただけなのに、心臓が跳ねる。
自分に向けられたその優しさを、無意識に拾い上げてしまう。