治療不可能な恋をした
梨乃はふと、胸の奥でひっかかっていた言葉をそのまま口にしていた。
「……どうして?」
理人が、ソファからゆっくり顔を上げる。
「ん、何が?」
「どうしてそんなに、私のこと……気にしてくれるの?」
気が抜けたような声だった。けれどその問いには、どうしても答えがほしかった。
だって彼は間違いなく人に囲まれていた。学会の時も、今も、どうしてこんなに、関わろうとしてくれるんだろう。
理人はしばらく黙ってから、目を逸らすように短く笑う。
「……どうしてだと思う?」
その声色は、どこか照れくさそうで、けれどごまかすような強がりが滲んでいた。
梨乃は少しだけ目を細め、理人の言葉を噛み締めるように息を吸った。
(……どうして、なんて)
そんなの、こっちが聞きたい。
でも、言い返すことはできなかった。ただ、目を伏せたまま、自分の指先を見つめる。
沈黙が落ちる。けれど、どちらも視線を外したまま動こうとしなかった。
「……みんなのところ、戻らなくていいの?」
思わず口をついて出た問いに、理人は少しだけ間を置いて言った。
「戻らない」
はっきりとした声音だった。
「え……」
「こっちが優先だから」
心臓が、ぎゅっと鳴る。