治療不可能な恋をした
「痛いことはしないから大丈夫。お母さんもそばにいるし、仁科先生もいるからね」
理人の穏やかな声に、奈々はようやくこくりと小さく頷いた。
「じゃあ、ちょっとだけお洋服上げてくれるかな」
梨乃がそっと声をかけ、母親が奈々の服をめくるのを手伝う。理人が聴診器を耳にかけ、奈々の胸元にあてがった。
「……深呼吸できるかな。吸ってー、はい、吐いてー……うんうん、上手」
奈々の胸の動きに合わせて、理人の表情がわずかに引き締まる。
梨乃も横で見守りながら、電子カルテにメモを取った。
「雑音はあるけど、既知の動脈管開存に伴うものだな。状態としては安定してる。術前のコンディションとしては問題なし」
聴診を終えて立ち上がった理人が、梨乃に向かってそう言う。淡々とした口調の中にも、責任感と医師としての確信が滲んでいた。
「ありがとうございます。麻酔科との連携も確認しておきます」
梨乃も同じように事務的に答える。
奈々が服を整えている間、理人はカルテを確認しながら母親に視線を向けた。
「奈々ちゃんの様子ですが、最近ひどく咳き込むとか、体調の変化はありましたか?」
「いえ、ここ数日は落ち着いています。少し疲れた日は早く寝るようにしてるくらいで……」
「それならよかった。今日このあと、心エコーと採血の予定が入っています。案内しますので、看護師と一緒に検査室へ向かってください」
「わかりました。よろしくお願いします」