治療不可能な恋をした

理人の手が、そっと頬に触れる。

「顔が赤い。……まだ酔ってる?」

呟きながら、その指先がほんの少し、喉元へと滑っていく。触れ方は優しくて、意識を逸らそうとしても、もう目を閉じるしかなかった。

そして、小さく首を振った。

「……嫌だったら、殴って」

そう言う声が、すぐ唇の近くで落ちる。

だけど梨乃は──何も言えなかった。

理人の唇がそっと触れた瞬間、ただ、まぶたの裏で何かが静かに崩れていくのを感じた。

キスは深くも激しくもなかった。ただ、確かに、そこに理人の体温があった。

その温度を知ってしまったら、もう、離れられない気がした。

理人がゆっくりと体を傾けてくる。

肩を包む手の温もり、近づいてくる体の重み。

梨乃はそれを受け入れながら、心の奥で小さく呟いた。

(……あとで後悔するって、わかってるのに)

それでも今だけは、彼に触れていたかった。

そう思ってしまった自分を、もう止めることができなかった。
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