治療不可能な恋をした
その日の夜、卒業パーティー会場。
理人は華やかな照明に彩られたホールをぐるりと見渡しながら、無意識に梨乃の姿を探していた。
(……いた)
ふと目に留まったのは、会場の隅に置かれた丸テーブル。
淡いブルーのシンプルなドレスをまとった梨乃が、数人の同期たちと軽く談笑している。柔らかく微笑んでは相槌を打ち、時折グラスに口をつける。
(……なんでだろ)
誰かに媚びるでもなく、目立とうとするでもない。ただ控えめにその場に“いる”だけ。
それなのに梨乃の周りだけ薄く光を帯びるように、空気の輪郭が少しだけ際立って見える気がした。
自分に気さくに絡んでくる女子たちとは、何もかもが違った。
「悪い、ちょっと抜けるわ」
近くにいた友人に声をかけ、さりげなく梨乃たちのテーブルに寄る。あくまで偶然を装いながら、梨乃の隣の席を引き当てた。
「仁科。お疲れ」
軽く声をかけると、梨乃は一瞬だけ目を丸くした。けれどすぐに、小首をかしげながら不思議そうな声を返す。
「……お疲れ様、です?」
(……そうくるか)
“なんで声をかけてきたんだろう?”
そんな心の声が、まるごと表情に出ていた。